(4)「強硬手段は好きではない」から「自分のリーダーシップの戦術は状況に合致していなければならない」へ
政治的な行動は、特に強制、脅迫、妨害といったハードパワーの戦術を伴うと、嫌悪感を抱かせやすい。男女を問わず多くの人にとって、「政治的であること」とは、説得、同盟関係の構築、支援の提供といったソフトパワーの戦術ではなく、その反対を意味する。
ただし、ハードパワーであれソフトパワーであれ、力そのものは良いものでも悪いものでもない。力の使い方の良し悪しを決めるのは、その背後にある動機と、それが他人に与える影響だ。
ハードパワーが否定的に使われる場面はよく目にするが、ソフトパワーもまた悪用され、邪悪な目的のために利用される。金融詐欺事件で禁固150年の刑を言い渡されたバーニー・マドフ、粉飾決算で経営破綻したエンロン元CEOのジェフリー・スキリング、900人以上の信者らと集団自殺したカルト教団の教祖ジム・ジョーンズが、説得力やカリスマ性、人間関係を構築する力をどのように行使したかを思い出してみよう。
このマインドセットから脱却しようとしているリーダーを筆者らがサポートする際は、ハードパワーあるいはソフトパワーの戦術を好みやスタイルの問題ではなく、状況に応じて採用しなければならないことを理解できるように支援する。
ハードパワーが必要な状況もあれば、ソフトパワーが必要な状況もある。具体的には、人々に責任を負わせたり、支持を得にくい厳しい決断を下したり、境界線を引いたり、職場での不適切な行動の結果を示したりするために、ハードパワーの戦術が必要になるかもしれない。
筆者の一人は、ソフトパワー戦術を明らかに好むリーダーをコーチングした。彼女はクリエイティブな業界で働き、その協調的なスタイルが最初はうまくいった。しかし、新しいチームを率いて数カ月が経つと、メンバーが燃え尽き症候群のような不満を訴え始めた。
まもなくチーム内で対立が起こり、シニアレベルのメンバー数人が会社を辞めた。これをきっかけに、彼女はチーム内の力学に目を向け、自分のリーダーシップがどのように働いているかを考えた。
彼女はメンバー一人ひとりと話し合い、自分の協調的なアプローチが、チームミーティングを少数の声高なメンバーが支配して、話を脱線させるという結果を招いていることに気がついた。本来の議題が無関係な議論に乗っ取られ、ミーティングは明確さも方向性も示さないまま終了することが多く、メンバーは結論を要約し再確認するための議論に時間を奪われていた。
このクライアントは、チームの力学に合わせてハードパワーの戦術を取り入れることを学んだ。みずから介入して、境界線を設け、会話のルールをつくり、会議のガイドラインに従わない人には責任を負わせるようになった。協調的なリーダーシップには限界があり、よりハードなパワーを使った戦術も必要であることは、彼女にとって意外な学びだった。