(5)「ペナルティが大きすぎる」から「自分の成長を優先させる」へ

 女性は野心的であることや政治的手腕を発揮することでペナルティを受ける。否定的なステレオタイプがキャリアに悪影響を及ぼすことは、研究からも明らかだ。現実に、女性やマイノリティが野心を見せると大きな代償を払うことになる。

 しかし、多くの人にとって、別の選択肢はより深刻な代償になるかもしれない。野心を示すことに対する反発は厳しいものだが、同じように、自分の潜在能力を発揮しようと努力せず、目標を達成するために限界まで挑戦しないことの個人的、心理的負担も大きいのだ。多くの女性やマイノリティにとって、自分の存在を主張できないまま世界が変わるのを待つことは、自分の野心に対する反発よりも大きな代償を払うことになるだろう。

 ここで必要なのは、成長を優先するマインドセットだ。ただし、甘く考えてはいけない。十分な準備をして、自分が直面する可能性のある結果を考慮すること。何か行動を起こす前に、リソースや仲間を集め、プライベートや仕事でのサポートを確保しておかなければならない場合もあるだろう。

 何よりもプランB、さらにはプランCを用意することが肝心だ。自分が受けるかもしれないペナルティを現実的に考える。計画通りに事が運ばなかった時の代替案はあるか。必要に応じて部門や、場合によっては会社を変える覚悟はあるか。

 成長(グロース)マインドセット(才能は努力、優れた戦略、外部からのインプットにより伸ばすことができるという考え方)は、否定的なステレオタイプから自分を守る盾になる。

 ある研究で、黒人の大学生に成長マインドセットを持つよう指導したところ、自分に向けられた否定的なステレオタイプを内在化する傾向が弱まり、その結果、成績が上がった。一方で、固定(フィックスト)マインドセットを持つ学生は、自分を変えることはできないと考え、否定的なステレオタイプの影響を受けやすかった。

 筆者の一人がコーチングを担当したある女性は、上司について、自分の野心を抑えつけ、上級幹部と接触させまいとし、仕事の手柄をいつも横取りすると説明した。さらに、自分は上司に排除されていて、もう会社を辞めるしかないと思っていた。

 彼女はコーチングを通じて、自分で自分の役割を決めていることに気がついた。新たなスキルを身につけたり、より大きな影響を与えたり、新しいステークホルダーと知り合う余裕を持てなかったりしたのだ。彼女が機会に恵まれなかったのは、軽蔑的な態度を取る上司と同じくらい、自分の役割の範囲を自分自身が狭めていることに関係があった。

 自分は成長しなければならないと認識した彼女は、会社の外で、権限の範囲も影響力もより広い、新たな役割を意図的に探そうと考えた。「排除された」のではなく、上司よりも自分のこれまでの心構えが限界を決めていることを理解したのだ。このようにマインドセットを変えたことで、彼女は物語の犠牲者ではなく英雄となった。

 女性や人種的マイノリティは、差別や否定的なステレオタイプ、敵意に直面しているという厳しい現実がある。ただし、自分が決めるべき選択には、柔軟性やレジリエンスを高めるような選択もあれば、そうでないものもある。覚悟を決めて、味方やリソースを集め、プランBを用意し、挑戦は学び成長する機会だと考える成長マインドセットを身につけることにより、直面する可能性がある反発から自分をしっかり守ろう。

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 オフィス政治は、参加するかどうかにかかわらず、仕事の経験やプロジェクトに影響を与える。駒になるよりもプレーヤーでいるほうが好ましいと、筆者らは言い続けている。

 筆者らがコーチングをしている女性たちは、トップレベルのリーダーになりたいと望んでいる。一方で、キャリアアップのために政治スキルを使うことについて自分の考え方が限定的であることを、多くの女性が検証していない。どのような状況でも、ネガティブで嫌悪を伴う状況では特に、マインドセットが成功のカギを握るのだ。

 本稿で挙げた考え方は、あなたにも当てはまるだろうか。もし1つでも当てはまるなら、自分の経験やキャリアの可能性をもっと広げるようなマインドセットに移行する方法が見えただろうか。

 社内政治が重要な理由は、相関的な世界で成功するということは、スキルや経験と同じくらい人や関係性が重要であるからだ。政治に参加し、政治スキルを発揮する能力は、キャリアアップに不可欠なだけでなく、職場でのウェルビーイングにとっても同じくらい重要である。


"How Women Can Get Comfortable "Playing Politics" at Work," HBR.org, January 19, 2022.