●急いで動こうとしない

 アイシングと休養を1カ月続けた結果、足首の筋肉が萎縮してしまったが、筆者にはそれがわからなかった。医師が勧めるより少しだけ早くランニングを再開すると、数日後、足首に鋭い痛みを感じた。そして、ランニングシューズの出番がない1カ月が再び訪れ、もどかしい気持ちで過ごした。

 リハビリの終わりが見えてくるほど、気持ちがはやり、無理をしてまた逆戻りとなりがちだ。物事が完成に近づくと、人はペースを上げる傾向にあるからだ。ゴールラインが見えたら速く走ろうと懸命になり、終わらせることに対する渇望も強まる。

 多くの企業が、2021年秋のオフィス再開に向けて急いで計画を立てたが、コロナ禍は予想外の展開を迎えた。ゴールポストを何度も動かしてプロジェクトチームを疲弊させた企業もあり、リハビリ段階にはそれなりの時間を要すると認識させられることになった。オフィスを再開しても、復帰が安全だと考える従業員の割合が多くても数%程度だと気づいた企業もある。

 ここから得られる教訓は何か。大規模な変化は、あなたの足首やあなたの会社の従業員が問題なく動けるようになってから起こすべき、ということだ。そして、計画を立てる際は急ごうとせず、全員が計画を消化し、処理するための時間を十分に用意する。私たちは誰もが、まだ「病み上がり」の状態なのだ。

 ●小さな進捗を大切にする

 病み上がりといえば、2年近くにおよぶ在宅勤務の結果、ソーシャルスキルの多くが衰えてしまった。人前で礼儀正しく振る舞うこと、一堂に会してミーティングを行うこと、さまざまな感情に加えて、職場でのストレスを上手にコントロールすることを忘れてしまった人もいるだろう。

 衰えてしまったスキルと、それにまつわるストレスに名前を付けることは、よい効果をもたらす。ラベリングにより自分の経験と感覚との間に距離が生まれるため、困難な感情を言葉で表現することはその感情を和らげるのに役立つと、研究から示されている。

 物事がなかなか進まないために、いら立ちを覚えるリーダーもいるだろう。しかし、少しずつでも前進することが回復のカギを握る。

 長期的な目標を達成するためには、報酬を得られそうな小さな「進展の証」を脳が受け取り、ドーパミンを放出する必要がある。それゆえ、どれだけ小さなことであっても成功を祝福し続けることだ。

 ●誰もが傷を負いながら働いていることを忘れない

 リハビリ段階で最も重要な教訓は、忍耐強さを持つことだろう。逆境の中で、自分自身を思いやるセルフコンパッションは、レジリエンスの安定をもたらすウェルビーイングの予測因子である。

 回復や孤立の時期は、内省的になるあまり、自分以外の人々も回復に苦しんでいることを忘れがちだ。研究によれば、セルフコンパッションは自分自身の忍耐強さにつながるだけでなく、同じように苦しんでいる人に対する忍耐強さを高めることが示されている。

 セルフコンパッションを実践するために、トラウマからの回復に必要な期間を調査した研究から、その結果に大きなばらつきが見られたことは知っておくべきだ。数カ月で回復する人もいれば、数年かかる人もいる。

 個人レベルであれ、組織レベルであれ、リハビリは2つとして同じものはない。それゆえ相手の回復状況を思いやることが、リハビリの段階を無事に終えるために最も重要なのだ。

 筆者はいまでもランニングを続けているが、以前よりその頻度が減少している。足首の痛みはなくなったが、完全には元通りになっていないため、ビーチでしか走っていない。ロードランが恋しいが、自分もまだリハビリの最中なのだと自覚している。


"We Need Time to Rehabilitate from the Trauma of the Pandemic," HBR.org, February 07, 2022.