●リーダー自身の責任を認めて、深い信頼を構築する

 あなたのリーダーシップスタイルに死角があり、それがチームメンバーの怒りにつながっている可能性はないだろうか。

 従業員のフラストレーションを高める要因は事欠かない昨今の現状を考えれば、あなた自身がメンバーの怒りの直接的な原因ではない可能性がある。しかし、リーダーがチーム全体あるいは個々のメンバーとどのように関わるかによって、メンバーとの間に緊張関係が高まることもあれば、信頼関係が構築されることもある。

 筆者がコーチングを行う顧客の中に、ある大企業でシニアバイスプレジデントを務める人物がいる。彼はメンバーとの信頼を育む道を選んだ。謙虚な姿勢で向き合い、チームメンバーの怒りとストレスを自分の推進力に変え、よりよいリーダーに成長するよう努めたのである。その努力は功奏し、最終的にメンバーのフラストレーションを和らげることができた。以下、詳しく見ていきたい。

 筆者らは、その会社でさまざまな階層の人たちにインタビュー調査を実施し、この人物に関する360度評価を行なった。その結果、本人が思っている以上に、周囲からネガティブな受け止め方をされていることがわかった。危機が浮上した時、彼の行いは透明性を欠いていると見られていたのだ。

 本来であれば、危機の時こそ公明正大なリーダーが求められる。その状況に対して、メンバーの怒りは高まっていた。

 同僚が怒りを感じている点は、それ以外にもあった。この人物は、一部の「お気に入り社員」を重用する傾向があると見られていた。少数の内輪の人間にばかり、昇進のチャンスや脚光を浴びる機会を与えていることが、不公平だと思われていたのだ。

 興味深いことに、透明性の欠如とえこひいきは、組織の中で信頼構築を蝕む要因として、とりわけ頻繁に指摘されるものだ。

 このようなネガティブな見られ方を改善するために、この人物は謙虚な姿勢で同僚に接し、指摘を受けたことに感謝の気持ちを表した。そして、自分がどのような点を変えたいかを公表し、チームメンバーには「コーチ役」になってほしいと伝えた。助言を求めて、毎月フィードバックをしてほしいと依頼したのだ。

 ネガティブな印象をポジティブなものに転換し、新たな認識を定着させ、メンバーの間にフラストレーションが生まれるリスクを最小化するには、このように率直な姿勢で臨む以外に方法はなかった。口先だけで、「責任を取り、次回はもっと頑張ります」などと空疎な反省を表明する方法は通用しない。

 一方、チームメンバーの側は、確証バイアスによって、自分たちが正しいと思う考え方を裏付けるデータにばかり目を向けていた。つまり、筆者の顧客のリーダーシップスタイルにネガティブな評価を下していたため、この人物の好ましい点ではなく、欠点により強く意識を向けていたのだ。

 リーダーシップの有効性を高めるには、メンバーが抱いているバイアスを逆転させる必要があった。自分の行動の好ましい面にもっと気づいてもらい、自分が失敗するたびに怒りをたぎらせるのではなく、「疑わしきは罰せず」の精神で見てほしいと考えたのだ。

 その後、彼の努力は結実した。自分の至らない点を公に認め、フィードバックと助言を求める姿勢を貫き続けると、次第に同僚から信頼されるようになった。本気で変わりたいと思っているのだと、認めてもらえたのである。その結果、メンバーはポジティブな印象を裏付ける材料に目が向くようになり、最終的に怒りを和げることに成功した。

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 チームに怒りが充満している状況では、ただでさえストレスが多いリーダーの役割が、いっそう過酷なものになりかねない。しかし、メンバーの怒りの感情に適切に対処すれば、ネガティブ感情によってリーダーシップの有効性が損なわれる事態を避けることができる。

 本稿で示した提案内容を実践することで、メンバーの怒りが伝染するのを防ぐだけでなく、その怒りを追い風にして、メンバーとの間に信頼関係を築き、将来のパフォーマンスに直結するモチベーションを強化することができる。


"Managing Anger, Frustration, and Resentment on Your Team," HBR.org, February 14, 2022.