職場のウェルビーイングの基盤を築くための2つの原則
原則1:逆境を集団の課題として捉える
筆者らの研究は、組織が苦痛や逆境を個人の問題ではなく集団の問題として捉えると、共同の対処戦略を通じて真のつながりを深め、よりよい回復につながることを示唆している。
たとえば、アドベンチャーレースチームを対象とした最近の研究では、障害(病気、けが、技術的な故障など)をチーム全体の問題として捉えた場合、その影響を受けたのが一部のメンバーだけだったとしても、チームはコミュニケーションを増やし、物理的にも社会的にも結束を強めたことがわかった。
最も重要なのは、逆境から生じる感情的な影響を互いに認め合い、助け合って処理したことだ。それによってメンバー間の負担が分散され、孤立したり、打ちのめされたりする人がいなくなった。
つながりを維持し、強化することで、集団としての機能も向上した。物理的リソースと知的リソースを斬新な方法で組み合わせたり、現在のケイパビリティをより有効活用するための戦略を練り直したりすることで、逆境に協力して対処することができた。
たとえば、山の斜面で転倒した1人の自転車レーサーと彼の自転車が木に引っかかっているのを発見したチームは、その斜面に人間の鎖をつくり、レーサーと自転車を引き上げた。
反対に、逆境を個人で対処すべきものと捉えると、メンバーは苦痛や恐怖、不安を抱えて孤立してしまう。コミュニケーションが失われ、物理的にも社会的にも距離が生じ、たいていチームの機能が低下してミスが誘発され、逆境を深刻化させることになる。
原則2:リレーショナルポーズを設け、促進する
苦痛が集団の問題として認識されると、適切な集団的解決策を策定することが容易になる。この解決策の核となるのが、リレーショナルポーズを設け、促進することだ。この社会心理学に基づく小休止の目的は、従業員同士の真のつながりを強化し、個々のウェルビーイングを実現することだ。
リレーショナルポーズとは、進行中の仕事を一時的に、たいてい短期間だけ中断し、「私たちの仕事は、人間としての自分にどのような影響を与えているのか」という問いに対して、それぞれが答えを導くためのものだ。
これはある意味、集団が省察を行う際に取得する小休止と似ている。医療チームでは「セーフティハドル」と呼ばれ、これから行う処置について全員が明確に理解していることを確認する。軍のチームは「タクティカルポーズ」を取ることで、データの検証や前提条件の確認を行う。しかし、リレーショナルポーズはこれらと異なり、仕事における感情的現実や関係的現実を知る機会を提供する。
重要なのは、その目的が精神分析や個人セラピーでもなければ、「慰めの会」や「泣き言を言うこと」でもないことだ。このプロセスでは、関係者が友人である必要すらない。これをやらなければ見過ごされかねない仕事における感情的現実を表面化し、その存在を認めて、グループのメンバーがその事実と生産的に関わるのを積極的に支援するという目的を持った議論だ。
あるメンバーが仕事の状況から生じた影響を説明した時、他のメンバーは自分自身の経験が異なる場合はいっそう積極的に耳を傾け、思いやりを示すことで、その事実を確認する。このような集団的エンゲージメントを通じて、真のつながりが築かれるのだ。