集団として「奮闘する」ことで
全員のウェルビーイングを実現する
逆境を集団的なものと捉えると、自分の体験がチームの共闘の取り組みの一部として感じられ、相互に思いやりと共感を持ちながら向き合うことができる。そこには「誰もが苦しんでいるが、ともに乗り越えられるよう奮闘している」という感覚がある。
このように他者と関わる作業こそが、ウェルビーイングを生み出す。具体的には、集団として以下の3つの重要なプロセスに取り組むとよい。
●より真正性が高く、より複雑なアイデンティティを表面化させる
チームメンバーは、自分の経験を率直かつ誠実に共有することで、互いのことや状況に対してより正確かつ複雑な見方ができる。困難な時期の防衛機制としてしばしば生じる、単純なレッテル貼りや非難はなくなる。正しいか間違っているか、被害者か加害者かなどと互いを決めつけるのではなく、長所も短所も、グレーの部分も持っていると認識できるようになるのだ。
自分たちの経験を共有することで、集団はより現実的な(極端でない)言葉で自分たちの状況を捉えることができる。そしてメンバーは、単純化された物語の悪役やヒーローではなく、その状況における本当の自分を受け入れ、また相手にも受け入れられるようになる。これは、安心感、包摂性、帰属意識を与えることで個人のウェルビーイングを構築するだけでなく、集団としてより洗練され、成熟した交流を行うのに役立つ。
●感情分散と感情処理を促進する
感情の高ぶり、特にネガティブ感情に圧倒されることがある。不安などの強い感情に支配されると、理路整然と考えたり、落ち着きを取り戻したりすることが難しくなる。しかし、感情経験を説明して、その見返りに思いやりを示されたり、受け入れられたりする行為そのものが、集団におけるメンバー全員の感情を分散させ、それぞれの負担を小さくする。
また、話し合うことにより、メンバーは自分の体験を理解し、自分に起きた出来事を処理できるようになる。たとえば、他人も苦しんでいると知ることで羞恥心から解放される。メンバーが感情に圧倒されなくなると、思考の明晰さや問題解決の能力が高まる。
●チームが自分たちの行動を認識し、省察するようになる
チームがリレーショナルポーズを実行すると、自分たちの関係に対する理解が深まる。互いのことや、自分たちが直面している状況をより繊細に理解し、逆境から生じた感情によって自分たちが迷うのはどのような時か、認識できるようになるのだ。
おそらく最も重要な点は、人は立ち止まることにより、省察するための空間と時間を確保し、互いの行動や、ともに奮闘する方法を考慮したうえで、慎重な選択を取れるようになることだ。
これら3つのプロセスは、相互に関連し、強化されることで、ウェルビーイングに不可欠なつながりを強固にする。最も意義深いことは、メンバーはユニークで欠点があり、苦悩しながらも、それぞれが人として価値ある存在であり、自分自身を大切にする集団の一員になるということだ。ウェルネスを実現するうえで、これ以上に重要な基盤はない。
たとえば、空きオフィススペースをアーティストスペースに再利用するデザインコンサルタント会社のリデンプティブ・デザイン・アソシエイツ(仮名)では、コンサルタントがプロジェクトの候補が挙がるたびに、何週間もかけてデザイン案を作成する。しかし、当然ながら毎回契約が取れるとは限らない。失敗すると、携わった人々はしばしば怒りや悲しみ、いら立ちを抱え、それがいさかいや陰口といった問題行動として表れる。
そこで、この会社ではピッチが失敗した際、リレーショナルポーズを実行することを習慣化した。いまでは、ピッチで失敗するたびに関係者全員が集まり、その経験を振り返っている。
話し合いは、ピッチの最中に感じたいら立ち、悲しみ、希望といった感情をメンバーが共有し、それを処理することから始まる。そのような経験を語り直すことで、チームメンバーは互いに成果に貢献した者、あるいは成果によって傷付けられた者であると理解でき、より真正性が高く、より複雑な視点で捉えることができる。
その結果、相互に助け合いながら、それぞれが抱える失望を処理し、対処することができる。そして、チームが次の提案で成功する可能性を高めるために、自分たちに起きたことを業務の観点で分析する作業に移れるようになる。最終的にコンサルタントたちは、困難な経験によって崩壊するのではなく、結び付きを強めるのだ。