(3)短期的なコストと利益を重視する
「持続可能性は常にコストが高くつく」という指摘は間違っているが、利益を必ずもたらすと言い切ることも、少なくとも短期的には正確でない。一定規模にスケールするまで、コスト高の技術もたしかにある。新しい技術とは、総じてそういうものだ。
UPSは数年前、今後はガソリン車と同じ初期費用で電気自動車を購入すると誇らしげに発表した。電気自動車の導入がようやくコストに見合うようになった、というわけだ。
しかし、現在に比べて小売価格が高かった時代ですら、電気自動車はガソリン車よりもオペレーションコストが低く、稼働率が高かった。その点を考えれば、以前から、車両の運用期間に対して割のよい買い物だったといえる。UPSをはじめとする運送業者は、購入価格が高いことで先行投資が増加しても、電気自動車の購入を通じて、もっと早い段階からコスト削減と排出量削減の恩恵を享受できたはずだ。
同様に、廃棄物ゼロの工場といったサステナビリティ目標も、適切に実現するには投資と時間が必要になる。しかし、その取り組みによりオペレーション全体が改善され、生産性と敏捷性の向上につながる。
解決策:投資判断のツールを再定義する
ROI(投資利益率)やIRR(内部収益率)という指標は、基本的に破綻している。価値の源泉を見落とし、あまりに高い割引率を用いているため、未来に対する投資はすべて価値がないと見なされるのだ。それが間違っていることは、我々も直感的にわかっている。
そこで、長期的思考の価値を証明するデータを見つけ出し、内部化すべきだ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)とFCLTグローバルによる共同調査では、真の長期志向の下で運営されている企業は、R&D投資を増やすといった重要な意思決定を行い、その結果、そうでない企業に比べて収益成長率が47%高く、時価総額の伸びも速いことが示されている。
より優れたツールと思考は、より多くの、より優れた行動につながる。
(4)コストをシステムではなくサイロで考える
生活賃金の支払いを重視すれば、短期的には、目に見える形であらゆるコストが上昇するだろう。これはある意味、問題だ。しかし、賃金支出という予算のサイロだけで考えると、投資の選択に対して部分的かつ狭い視野しか持てなくなる。
人材とサプライチェーンに投資する企業には、無形の利益が生まれる。優秀な人材の採用と定着につながり、従業員の生産性が高まる一方で離職率は低下し、コミュニティとの関係が強化され、自分たちがネットポジティブなインパクトを世界にもたらすという、優れた(そして真実の)ストーリーを顧客に語ることができるのだ。
解決策:価値観の幅を広げ、システム思考を実践する
ここでも、ROIをはじめとするツールは適切に機能しない。方程式の「リターン」の部分に、ネットポジティブで持続可能な道を選ぶことから得られる無形の価値(従業員エンゲージメント、顧客の情熱、レジリエンスなど)が含まれていないからだ。
たとえば、パートタイムや一時雇用から無期雇用への移行は、短期的にはコストが発生するかもしれないが、離職率の低下や生産性の向上という形で簡単に回収できる。より効率的で低コストのバリューチェーン、あるいはビジネスにとってより機能的で健全なコミュニティの構築など、システム思考の恩恵も見落としてはならない。
サイロ思考は、価値が低い状態を固定化させる。労働者の待遇と事業の成功を左右するさまざまな要素との関連性を体系的に捉えることで、より包括的でポジティブな視点を持つことができる。
それを実践するには、ESGに沿った意思決定がもたらす利益を可能な限りリストアップし、評価することが重要になる。投資に対する「リターン」の定義を拡大するのだ。