残念ながら、マリアの経験は特別なものではない。
筆者らは2021年の夏から秋にかけて、専門職として働く有色人種の女性に調査を行い、何がうまくいき、何がうまくいっていないかを探った。全米の1500人以上の女性を対象に実施した調査と、打ち解けた雰囲気で話ができるサロン形式のインタビューや個別インタビューを通じて、仕事の実体験について彼女たちと話し合った。
その中で繰り返し聞かされたのは、企業文化を損ない、女性に悪影響を与えるハイパフォーマーの話だ。何が起きたのか。大多数のケースで、有色人種の女性は、自分の才能やスキルが評価されると思える、よりよい機会を求めて会社を去っていた。
ある女性は、次のように語った。「私の会社は、大物プロデューサーの悪行を無視しました。彼の人事記録には苦情が寄せられ続けた記録があるのに、私は『うるさい人』というレッテルを貼られたのです。これ以上、どうすることもできない。だから、私が会社を辞めました。せいせいしています!」
別の女性は、「私たちのリーダーは有害なロックスターを甘やかし、結果として、私たちが苦しんでも知らん顔をしているのです」と言った。また、自分の身近な「フランク」について話してくれた人もいる。「『この人は(中略)人種差別主義者だ、性差別主義者だ』と疎外された人物が、一匹狼として片づけられ、ただの気難しい人物だというレッテルを貼られてしまうことがあまりに多いのです」と話してくれた。
有害なロックスターと接触しているのは有色人種の女性だけではないが、彼女たちが受ける影響は無視できない。有色人種の女性たちは、人種差別、マイクロアグレッション(偶然や無意識からくる差別的言動)、無知、そして場合によっては、あからさまな憎悪を背負わされている。すると、単に燃え尽きてしまうだけでなく、彼女たちが筆者らに語ってくれたように、トラウマを抱えてしまう人も多い。
筆者らの調査によれば、有色人種の女性は白人女性に比べて、マネジャーから支援されていると感じる割合が18%低く、自分のスキルや経験が評価され、活用されていると感じる割合が19%低い。また、有色人種の女性の70%が、正当な報酬を得るために、自分の力を繰り返し証明しなければならないと考えている。
これらの課題に目を向ければ、極めて有能で魅力的な人材を抱えるこの集団にとって、有害なロックスターの存在が「最後の藁」となり、我慢の限界を超えるケースが多いことは不思議ではない。
あるグローバルコンサルティング会社のシニアパートナーの女性は、自分にとっての「フランク」の物語を筆者らに教えてくれた後、次のように言った。
「もうたくさん。企業は、自分たちの行動の結果について考えるべき時です。有害なロックスターは、企業文化の癌なのです。彼らを権力の座に置いたままにすることで、その会社が何を本当に大切にしているかがわかります。つまり、人よりも利益を重視しているのです」