
チームメンバーの多様な視点を取り入れることは、イノベーションの実現や人材の維持に欠かせない。だが、たとえ優れたアイデアを出しても、地位の低いメンバーの発言だからと軽視されたり、否定されたりすれば、逆効果になりかねない。重要なのは、従業員に積極的な発言を促すだけでなく、その地位や役割にかかわらず、アイデアの中身そのものが重要であるという文化を醸成し、優れたアイデアを実行に移すことだ。本稿では、否定されたアイデアを甦らせ、結実させるためにリーダーとチームが実践できる5つの戦術を紹介する。
リーダーに対して、「日々の意思決定により多くの声を反映させなくてはならない」というプレッシャーがますます強まっている。組織のあらゆる階層から多様な視点を取り入れることはビジネス上、極めて有意義である。イノベーションを促進し、従業員は自らが評価されていることを実感し、バーンアウト(燃え尽き症候群)を回避するのに役立つことも示されている。
しかし、このようなプレッシャーは、平均的なチームにとって、より多くのアイデアを実現させることにつながっているのだろうか。実はそうでもないのだ。
筆者らは研究者、コンサルタント、教員として、従業員のアイデアを実行するためには「善意」だけでは足りないことを見てきた。リーダーは、従業員がアイデアを共有するように促すためのストーリーや戦術をたくさん持っているが、それを拒否する理由も同じくらいたくさん持っている。
リーダーが意見に耳を傾けようとしていないにもかかわらず、従業員に発言を求めると、逆効果になる可能性があることは、研究からもわかっている。精力的なスター社員は、アイデアの共有を促されてもそのアイデアが行き場を失うと、共有を促されなかった時以上に落胆し、会社を辞めてしまうことさえある。
実際、多くのリーダーが行き詰まりを感じている。従業員の視点が人材の維持とイノベーションに欠かせないことは、彼らも理解している。しかし、従業員が積極的に発言をして、そのアイデアを実行する力を持てるような文化、すなわちアイデアを最初に提案した人の地位や役割ではなく、アイデアの中身自体が重要だという文化を、リーダーは一人でつくろうと奮闘しているのだ。
筆者らは「ボイスカルティベーション」(発言の培養)に関する研究から、リーダーとそのチームが優れたアイデアを確実に実行するための戦術を明らかにした。以下に紹介しよう。