「発言の培養」で最初の否定を克服する

 優れたアイデアはどのように実を結び、あるいは日の目を見ずに終わるのかを理解するために、筆者らはある医療機関で2年間にわたり、「アップワードボイス」(上向きの発言)の追跡調査を行った。上向きの発言とは、組織やチームの機能を改善しようという建設的なアイデアのことだ。その結果、多くのアイデアが却下された一方で、数百件のアイデアのうち約4分の1が最終的に実行された。

 実行されたアイデアに共通するプロセスを、筆者らは「発言の培養」と名づけた。これは、権限の小さいメンバーが提案したアイデアを実行に移すために、チームが助け合う集団的・社会的プロセスである。

 チームメンバーが当初は否定されたアイデアを甦らせ、それを結実させるべく取り組み続ける様子を、筆者らは見てきた。そこで彼らが用いていたのが5つの戦術、すなわち「増幅」「発展」「正当化」「実証」「問題提起」だ。これらの戦術は、ほとんどの職場において、チームメンバーが戦略的に実践できる。

 ●増幅

 他の人の優れたアイデアに繰り返し言及すること、特に複数のコミュニケーション手段を通じて後から言及することは、そのアイデアを前進させる手助けとなる。これは、権威のある人物に影響を与えようとする場合、特に有効だ。筆者らが調査を行ったクリニックでも、このような例を数多く目にした。

 たとえば、ある看護師が、業務に支障が出るほど電話の対応に追われていると訴え、これまでとは違う戦略を提案した。医師は彼女に感謝を示したが、問題が大きすぎて「解決できない」という理由で、彼女の提案を却下した。しかし、この問題は長引き、彼女が産休中に別のメンバーが同じアイデアを再び提案した。彼女が職場に復帰するまでに、チームは電話の対応についてさまざまな戦略を試していた。

 バラク・オバマ米政権の女性スタッフの間でも、同じような増幅の戦術が取られたのは明らかだった。『ワシントン・ポスト』紙によると、「ある女性が重要なポイントを指摘すると、他の女性がそれを繰り返し、最初の発言者を称賛する。これによって、その場にいる男性スタッフに彼女の貢献を認めさせ、それが自分のアイデアだと主張する機会を奪った」。

 ソニア・ソトマイヨール米最高裁判事は、ニューヨーク大学法学部が主催した対談で、彼女と故ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が互いのアイデアを増幅することによって、絶えず発言を中断されアイデアを横取りされていた慣習を克服したと語った。

 筆者らが最近、ハーバード大学で開催したエグゼクティブワークショップでは、外科医で大学の学部長を務めるエイプリル・カミラ・ロスラニ博士が、「優れたアイデアが見過ごされたり、評価されない場合には、そのアイデアを繰り返したり、同意を示したりすることで、最初に言い出した人物を認めるように」と自分のチームに奨励していることを紹介した。

 増幅することによって、優れたアイデアを聞いたすべての人が、それが失われないように守ることができる。

 ●発展

 アイデアに疑問を呈することが、よい方向に働く時もある。筆者らの調査でも、否定されたアイデアを守るために、他のチームメンバーが状況を明確にする質問を投げかけ、チームや周囲の理解を促すという場面があった。

 この戦略は、異なる職種やジェンダーの人々が、それぞれに異なる専門用語や言語パターンを使って意見をぶつけ合うことが多い共同チームにおいて、特に有効だ。アイデアがもたらす困難や機会は、あるメンバーにとっては顕著でも、別のメンバーには見えていないかもしれない。互いのアイデアを発展させながら、チーム全体の理解を深めるのだ。