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「リバース・イノベーション」と「破壊的イノベーション」の間には重なる部分があるが、1対1の関係ではない。言い換えれば、リバース・イノベーションの例には破壊的イノベーションの例もあるが、すべてがそうではない。リバース・イノベーションを提唱した筆者らがその違いについて述べる。

破壊的イノベーションとは何か

 筆者らはHBRの2009年10月号に、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼CEO(当時)との共著論文”How GE is Disrupting Itself”(邦訳「GE リバース・イノベーション戦略」DHBR2010年1月号)を発表した。その中で「リバース・イノベーション」という現象を紹介すると、クレイトン・クリステンセンが定義した「破壊的イノベーション」との関係について、複数の方から質問をいただいた。

 リバース・イノベーションと破壊的イノベーションの間には重なる部分があるが、1対1の関係ではない。言い換えれば、リバース・イノベーションの例には破壊的イノベーションの例もあるが、すべてがそうではない。

 リバース・イノベーションとは、ごく簡単に言えば、途上国で最初に導入される可能性のあるイノベーションのことだ。歴史的に見ると、ほぼすべてのイノベーションは富裕国で最初に導入されてきたため、こう呼ばれる。筆者らは、リバース・イノベーションが今後ますます一般的になり、富裕国に本社を置く既存の多国籍企業にとってやっかいな組織的課題になると主張した。また、その課題を克服するための組織モデルについても解説した。

 破壊的イノベーションには、既存企業を危険にさらす特別な力がある。既存企業の製品には主要なメリットが2つあり、これをAとBとする(たとえば、Aは品質、Bは納品速度)。多数派の顧客は主にAに関心があるが、AよりもBを重視する少数派の顧客がいる。破壊的イノベーションは、その発生時、Aには弱いが、Bには強い。そのため、惹き付けるのは少数派の顧客だけだ。

 多数派の顧客はそれを望まないため、既存企業は新規参入企業と新技術を無視する傾向がある。しかし、時間の経過とともに技術が向上し、イノベーションはAの部分でも優れていく。最終的には、Aの面で多数派の顧客ニーズを満たし、Bの面にも少なくとも一定の価値を置くため、顧客は新製品を選ぶようになる。既存企業は突然、破壊される。ずっとその新技術を無視してきたからだ。

 クリステンセンの有名なディスクドライブ業界の研究では、Aはディスクドライブの記憶容量、Bはディスクドライブのサイズだった。クリステンセンは、新規参入企業がより容量が小さく、サイズも小さいディスクドライブを導入することで、既存企業を繰り返し破壊することを示した。

 多数派の顧客は当初、関心を示さなかった。彼らは小さな容量ではなく、より多くの容量を必要としていた。しかし、時間が経つにつれて小型ドライブの容量は増え続け、多数派の顧客も関心を持つようになった。