●これまで経験した試練を語る

 次に、チームの心理的安全性を長期にわたって改善するには、みずからの成長の過程について語るのがよい。これまでの人生の中で、つまずいたけれど、建設的なフィードバックを受けたことにより、自分の振る舞いを改善して状況に適応させなくてはならないと知った経験について、チームメンバーに語ることだ。

 リーダーが自分の失敗を隠すのではなく、その経験を打ち明ければ、親しみやすい人物だと思ってもらいやすくなる。威張っているというイメージはもたれにくくなるはずだ。また、リーダー自身が学習した経験を披露することにより、厳しいフィードバックを受けることを恐れていないというシグナルを発する効果も期待できる。

 たとえば、ある研究では、企業のCEOに自分が過去に受けたフィードバックについて自社の経営チームに語った経験と、そのチームに対してフィードバックを求めた経験について報告してもらった。調査対象となったCEOが働く企業の業界は、製薬、ヘルスケア、ビジネスサービス、テクノロジー、ソフトウェア、通信、行政サービス、製造、消費者向け製品・サービスを含めて、広範にわたる。

 研究の結果、過去に自分が受けた建設的な批判について語ったCEOのほうが、経営チームの中に強力な心理的安全性を築いていることが示唆された。トップが適応と学習を求められた経験をオープンに語ることにより、チームの中で弱さを見せることと学習することを当たり前のことと位置付け、具体化できるのだ。

 同様の結果は、別の研究でも再現されている。その研究では長期的なフィールド実験を行い、ランダムに選ばれたリーダーに、みずからの弱さをチームの前で見せるよう求めた。1年後の調査で、そのチームの心理的安全性が高まっていることが明らかになったという。それとは対照的に、リーダーが従業員に対してフィードバックを求めた場合は、そのような効果は見られなかった。

 つまり、研究のデータを見る限り、リーダーがみずからの過去の学習経験について語っても、「仕事ができて有能な人物である」という評判に傷がつくことはない、ということだ。

 言うまでもなく、リーダーの地位にある人にとって、自分の弱点をさらけ出すことは容易でない。実際、前述の研究対象になったリーダーと従業員に話を聞くと、過去に受けたフィードバックの経験を打ち明け、自分の弱さをさらけ出そうとすると、不安が高まり、居心地が悪いと感じる人が多かった。

 リーダーは、そのような経験を語ろうとする時、強烈な緊張を感じ、自分が「自信のない、無能な人物だ」と従業員に思われはしないかという不安を抱いていた。あるリーダーは、次のように述べている。

「自分が成長しなくてはならない領域について語ることに、少し不安を感じていました(中略)キャリアを通じて常に抱いてきた不安が、いっそう強まってしまったのです(中略)私はずっと、インポスター症候群に苦しめられてきました。自分が十分な能力を備えているとは、なかなか思えないのです」

 加えて、心理的安全性に対するポジティブな影響は、すぐに生じたわけではなかった。そのため、従業員の中には、驚いたり、居心地が悪く感じたりする人がいただけでなく、当初はリーダーの狙いがうまくいくかどうか疑ったり、リーダーの真意に疑念を抱いたりする人もいた。

「ほとんど反応がありませんでした」と、あるリーダーは従業員の最初の反応を説明した。「部屋を見回しましたが、みんな、押し黙っていました」。別のリーダーは、次のように振り返る。「みんな、ぽかんとした表情でした。いったいこの人は何を言っているんだ、という感じだったのです」

 しかし、難しいからこそ、そのような行動が大きな影響を及ぼす。これまで、リーダーは強さと自信と有能さを前面に押し出すべきものとされていた。そのため、リーダーが自分の欠点や失敗を認めると、従業員は驚き、状況を理解することに苦労する可能性が高い。言い換えれば、リーダーが何をしているのか、真剣に考えなくてはならなくなるのだ。

 研究によれば、リーダーが過去に受けたフィードバックの経験について語ることで、リーダーも従業員もやがては、弱さを共有することは当たり前のことだと認識するようになった。その結果、リーダーは自分の経験を従業員に共有するという約束を守り続けようという意欲が高まり、従業員もみずから同じように行動しようという意欲が高まったという。

 そして、このようなやり取りや会話を重ねていくうちに、リーダーは自分の経験を打ち明けることへの居心地の悪さをあまり感じなくなり、従業員も自分の経験を語ることへの抵抗感を抱かなくなったということだ。