リトリートの形式を再構築する
筆者がリトリートを運営するようになって間もない時に、社員5000人規模の電気通信事業者のリトリートを担当したことがある。ここでは、仮に「TelCo」と呼ぼう。
同社のCEOは、従来の形式を変えることで、エグゼクティブ25人から成るチームに刺激を与えるという斬新な発想を持っていた。際限のないプレゼンテーションは、姿を消した。CEOは、年1回開催される社内会議の名称を「TelCoインベスターデー」に改めた。
参加するエグゼクティブに求められたのは、手強い投資家グループの前に立ったつもりで、今後3年間の戦略とプランを売り込むピッチを行うことだった。CEOはこのロールプレーの一助となるように、いくつかの質問を用意した。それらは、例年開催されてきたリトリートでは聞かれたことがないような質問だった。以下に例を挙げよう。
・あなたは今後3年間で、どのようなタイプのプレーヤーになりたいですか。
・あなたの目標を達成するために、どのような実行プランがありますか。
・あなたが市場を獲得できると考える差別化要因は何ですか。
・私たちは公共事業者で、このようなものをつくるのは初めてです。あなたはこの事業で信用されるために何をしていますか。
・持続可能性を真剣に考えていることを伝えるのは、重要なことです。あなたが語るESG(環境、社会、ガバナンス)のストーリーは、どれだけ信頼性が高いですか。どのようにして実現するつもりですか。
・あなたの持続可能な事業戦略を、50ワード以内でまとめてください。
事前に、CEOがエグゼクティブに質問を教えることはなかった。その代わり、TelCoインベスターデーの2週間前になると「各自、今後3年間の戦略について、10分間のピッチを行う準備をするように。ただし、パワーポイントのスライドは使用しないこと」と伝えた。筆者は、それぞれのエグゼクティブと2回ずつ、面談を行った。1回目は大枠のブリーフィングのため、2回目はリハーサルのためだった。
このロールプレーは、リトリートで大いに効果を発揮した。オーディエンスは真剣にピッチに耳を傾けた。そのようなリトリートは、筆者らのコンサルティング経験において初めてのことだった。2日間にわたる戦略策定会議で、エグゼクティブがみずから主導権を握り、積極的に議論に貢献したのだ。誰も話の途中で、メールのチェックをするようなことはなかった。
参加したエグゼクティブ全員が、建設的に自分自身の限界に挑もうとしていた。あるエグゼクティブは次のようにコメントした。
「従来のリトリートは年に1度、ただ皆が集まって顔を合わせる機会でしかありませんでした。今回初めて、より建設的な形でつながりを持つことができました。また、戦略目標や同僚の志、そしてどうすればよりよく協力し合えるかをはっきりと理解できた気がします」
この新たな形式を通じて、同社のエグゼクティブは自分たちの視点を変え、投資家の目で物事を見る機会を与えられた。会社や個々の事業に感情的な執着のない、外部の人間の立場に立ったのである。
その結果、質問や情報が自由闊達に交わされるようになり、公正かつオープンで、建設的なフィードバックを相互に行う土台ができた。それぞれのエグゼクティブが、自分の価値創造の提案と事業戦略の健全性について、投資家役のCEOや同僚を納得させようと奮闘したのである。