(1)対話の場のダイバーシティを検証する

 対話の場のダイバーシティとは、プロジェクトに関するあらゆる話し合いに常時参加するメンバーたちの、経験と背景と視点が多岐にわたるよう徹底することである。ここには、上位のステークホルダーからデザインと業務を遂行する従業員までが含まれる。

 メタバース人材のインクルージョンの推進に注力するイニシアティブとして、グラント・フォー・ザ・ウェブ基金や、メタのイマーシブ・ラーニング・ラボなどがある。これらは、社会的に疎外された少数派のコミュニティ出身のクリエイターに研修と資金を提供している。

 真にコミュニティ中心の対話を行うためには、リーダーは参加者の構成を見極めるだけでなく、心理的安全性帰属意識が生まれる環境づくりを促進しなければならない。社会的に疎外されたコミュニティへの潜在的影響に関する本音を避けず、問題に対する壮大なアイデアとソリューションを共有する心づもりで対話に参加してもらうことが望ましい。そのためには、率直さと弱さを歓迎し、それに報いる場を醸成しなくてはならない。

 (2)解決を目指す問題をフレーミングする

 フレームワークス・インスティテュートの記述によれば、「フレーミングとは、何を述べるか、それをどのように述べるかに関する選択である。何を強調するのか、何をどのように説明するのか、何を言わないでおくのか。これらの選択は重要であり、人々がどのように聞くのか、何を理解するのか、どのように振る舞うのかに影響を及ぼす」とある。

 私たちは、どのようなプロジェクトに取り組んでいるのであれ、誰もがそこに自分独自の前提とバイアスを持ち込む。解決を目指す問題について、誰のためにデザインしているのかという自問も含め、時間をかけてじっくりフレーミングすることが、間違った方向に向かうのを防ぐことになる。

 ここで、新たなアイデアのひらめきと新たな可能性の想像を促す、「How might we ...(我々はどうすれば~しうるか)」というデザイン思考の代表的なエクササイズが役に立つ。このエクササイズで求められるのは、対象となるユーザーおよび彼らのニーズと知見について理解を深めること、そして自分だけで問題解決をしない姿勢だ。

 例として、「我々はどうすれば、低所得のコミュニティに対し、メタバースに参加するための高速インターネットへのアクセスを確保できるだろうか」と自問するとしよう。必要なのは、対象のコミュニティの反応と知見にしっかり耳を傾けることだ。そうすることで、低所得コミュニティにおける高速インターネットへのアクセスに伴う問題が明らかになり、望ましい成果へとつながる。

 (3)共感を持って耳を傾け探索する

 デザインの正義で重要な原則は、社会的に疎外されている人々に、「自分たちにとって不利な状況はなくならない」と感じさせないよう万全を期すことだ。包摂性をどのように追求すべきかを考えるうえで、共感に根差した人間中心のアプローチが必要となる。

 共感を中心に据えるとはつまり、積極的に耳を傾けることだ。社会で疎外され影響力を持たないコミュニティは、何を考え、どう感じているのか。その状況、場所、環境における彼らの役割はどのようなものか。彼らのおそれ、不満、不安は何か。これらを理解することに重点を置くべきである。

 積極的な傾聴によって信頼と人間関係が築かれ、重要な情報の取りこぼしを防ぐことになる。さらに、取り組んでいるデザインにおいて、どのような潜在的問題が表面化しうるかについて聞くことができる。

* * *

 メタバースは、私たちの働き方や遊び方、ブランドとの関わり方など多くのことに新たな機会をもたらすはずだ。メタバースへの参入を計画している企業には、誰もが自分の存在が反映され居場所があると感じられる、インクルーシブな空間を構築する機会と責任がある。

 その取り組みは簡単ではないが、デザイン・ジャスティス・ネットワークが掲げる10の原則に根差した上記の方策は、現在地から目標実現へとつながる道筋を示している。


"Designing an Inclusive Metaverse," HBR.org, September 22, 2022.