
従業員に対して「仕事を失うかもしれない」と不安を煽ることで、パフォーマンスを高めようとする企業が少なくない。これはモチベーションを引き出すことが狙いだが、失職の不安を利用することはむしろ逆効果になると、筆者らは指摘する。調査結果から、短期的には一部のパフォーマンスが高まる可能性があるものの、最終的には、従業員と組織の双方にとって弊害が大きいことが明らかになっているからだ。本稿では、調査結果を紐解きながら、雇用不安を煽ることの弊害を論じる。
雇用が不安定な状況で、従業員はどう行動するか
ある最近の世論調査によれば、米国の労働者の15%が「自分は、職を失うリスクにさらされている」と感じている。米国では現在、失業率が記録的な低水準に留まっているにもかかわらず、である。
労働者が不安を感じているのは、偶然ではない。さまざまな研究結果から明らかになっているように、いま多くの職場では、意図的に、従業員に失職の不安を抱かせようとしているのだ。そうすることによって、彼らのモチベーションを高め、さらにはコストを削減することが狙いだ。職を失うことを恐れている従業員は、昇給や他の福利厚生を求める可能性が低いと考えられているからである。
実際、フェイスブックやゼネラル・エレクトリック(GE)のような企業は、失職の不安を煽ることによって従業員のパフォーマンスを高めようとする戦略を、公然と採用している。しかし、多くの研究結果から、雇用が不安定な状況には、従業員に孤独感を抱かせ、アイデンティティを傷つけ、肉体と精神の健康を損なうというネガティブな影響があることがわかっている。
このように従業員のウェルビーイングにネガティブな影響が及ぶことは、言うまでもなく由々しき問題だ。しかし、そのような道義的な問題を別にしても、このアプローチは本当に従業員のパフォーマンスを向上させる効果があるのだろうか。
筆者らは、この問いに対する答えを明らかにするために、さまざまな業界で働く米国の従業員600人以上を対象に一連の調査を行い、回答者がどれほど雇用不安を感じているかと、その人物が職場で実際に取っている行動の関係を調べた。その結果、雇用不安によって、短期的には一部の指標でパフォーマンスが高まる可能性があるものの、全体として見ると、従業員と会社の双方にとって弊害のほうが大きいことが明らかになった。