●雇用不安を感じる従業員は、会社のルールを守らない可能性が高い
自分の雇用が不安定だと感じると、仕事のパフォーマンス全般を向上しようとするだけでなく、会社のルールを破る行動(例:遅刻する、会社の備品を壊す)を避けようと努力するのではないか。筆者らは、このような仮説も立てた。
確かに、その可能性はありそうだ。たとえば、筆者らの調査に参加したある教員は、次のように説明している。「指示されたことは何でもするように、常に努めています。それに、目をつけられないようにも気をつけています。自分の意見を主張したり、規範に反する行動を取ったりすれば、解雇対象になるリスクがあると思うのです。いまのような厳しい時代には、特にその危険は大きいですから」
小売り企業で働く人物も、同様のマインドセットを口にしている。「私は過去に(職を失うことへの)不安を抱いていました(中略)職を失わないための行動として、主に気をつけていたのは、絶対に遅刻しないこと、昼食の休憩時間を長く取りすぎないこと、そして残業せず、定刻通りに退勤するように最善を尽くすことでした」
しかし、時間の経過とともにデータがどう変わるか検討したところ、ここでもやはり、人々が自身の意図通りの行動を取るとは限らないことが明らかになった。職を失うことへの不安を感じている従業員は、ルールに従おうという強い意思を抱くものの、その後の3カ月間にルールを破る確率は、むしろ高まるのだ。
そして、これは意外なことではないが、不適切な行動をより多く報告している人ほど、「自分の仕事がなくなるのではないか」とより大きな不安を感じていた。その結果、悪循環が生まれる。雇用不安が高まることで、それが意図的なものではないにせよ、ルール違反の行為を助長し、ますます雇用不安を高めるのだ。
高いパフォーマンスを発揮しようと努力する場合と同様、会社のルールを守るために必要なセルフコントロールを実践するには、かなりの認知的リソースを必要とする。そのため、失職の不安を抱くことで精神面に対する負荷が増せば、本人の意思とは関係なく、ルールに従うことがより難しくなるのだ。