●従業員に雇用不安を感じさせることは、組織にとっても割に合わない
たしかに、従業員のモチベーションを高めるうえでは、「アメとムチ」も時には必要だ。しかし、筆者らのデータが示しているように、従業員に失職の不安を抱かせることは、残酷というだけでなく、しばしば逆効果でもある。
ある調査対象者は、次のように述べている。「レイオフされるにせよ、部署や部門がなくなるにせよ、早期退職を強いられるにせよ、契約延長を断られるにせよ、職を失うということは、人生の中でも特にストレスがかかる経験の一つです。経済的な苦境に陥ることは言うまでもなく、失職によるストレスは、その人の心理状態や人間関係、そして精神的・情緒的健康全体にも深刻な影響を及ぼす場合があるのです」
失職の不安を感じている従業員は、パフォーマンスが改善せず、会社のルールを破りやすくなる。そして、自分自身を売り込むことに躍起になり、しばしばチームと組織に悪影響を及ぼす。弊害はそれだけではない。この種の行動の多くは、悪循環を生み出し、失職の不安をさらに強め、個人のウェルビーイングと組織の利益の両方を損なう結果を招く。
もちろん、職を失うことへの不安を完全になくすことは不可能だ。それでも、筆者らの研究結果を見る限り、ウェルビーイングを高めるという意味でも、パフォーマンスを高めるという意味でも、従業員が職を失うことへの不安を感じないように、リーダーは最大限の努力を払わなくてはならない。
"Job Security Harms Both Employees and Employers," HBR.org, September 26, 2022.