●失職の不安を抱く従業員は、目に見える仕事に力を注ぐが、必ずしも「真に価値のある仕事」とは限らない

 最後に、職を失うことへの不安が強い人ほど、自分の貢献を上司に印象づけようと躍起になることが明らかになった。実際に自分のパフォーマンスを向上させることよりも、それが優先されてしまうのだ。

 ある程度までは、自分が職場でどのように見られるかというインプレッションマネジメントをしようとするのは健全なことだ。しかし、著者らの調査対象となった従業員の多くは実際、組織にとって有益そうなタスクを行うよりも、自分の貢献を目立たせることを優先していた。もっとひどい場合には、自分が周囲より優れて見えるように、同僚から情報を隠したり、わざと同僚の邪魔をしたりするケースも見られた。

 たとえば、ある回答者は、できるだけ質の高い仕事をするよりも、自分を同僚より優秀だとアピールすることに、もっぱら関心を持っていたという。「自分より成績が悪く見える人がいれば、自分の座は安泰になると考えたのです」

 セルフプロモーションが「自分の雇用を守るうえで、重要な要素」になっていたと語る回答者もいた。この人物は、職を失うのではないかという不安を感じると「自分がいかに価値ある人材であるか」を印象づけることに必死になり、「隣の席に座っている同僚より、3倍は優秀に見せよう」とすると説明していた。

 興味深いことに、同僚から情報を隠すことによって、実際に失職の不安が和らぐケースがあるとわかったことだ。これは、「自分は替えの利かない人材である」と感じることで、自分の座を守れるという自信を確固たるものにするという意味では、戦略として有効かもしれない(もっとも、組織に害が及ぶことは言うまでもない)。

 しかし、自分の貢献をさらに際立たせようと血眼になれば、雇用主にとって大きなコストが発生するだけでなく、本人にも悪影響が及ぶ。職を失うことへの不安が、ますます強まったのだ。これはおそらく、自分自身に対する注目が増した結果、高いパフォーマンスを挙げなくてはならないというプレッシャーがさらに重くのしかかり、その結果、雇用への不安がいっそう強まったのだと考えられる。