Juan Moyano/Stocksy

リモートワークやハイブリッドワークが浸透する一方、「対面のワークショップやイベントを復活させて、組織の一体感を高めたい」という考えが、リーダーの間に根強く存在する。コロナ禍によって、物理的に「一緒に過ごす」ことができなくなったために、従業員エンゲージメントが著しく低下しているという懸念があるためだ。しかし、対面のほうがリモートよりも学習効果が高いというのは本当だろうか。本稿では、もっともらしく唱えられている4つの神話の間違いを指摘し、対面の機会を復活させるに当たり、その効果を最大限に活かすための3つの条件を論じる。

「対面の復活」を唱える前提にある4つの神話

 従業員エンゲージメントは、ほぼすべての業界で、恐ろしいほど低い水準にある。そうした状況で、リーダーが深刻な悩みを抱えて「グレート・リシャッフル」(大改造)を乗り切るための答えを探し求めているのも、無理はない。

 これらの問題はすべて、パンデミックによって、多くの人がリモートワークを余儀なくされたことで「一緒に過ごす」ことができなくなったことに端を発すると、よくいわれる。以前のように、従業員はデスクを並べて働き、学習機会についても対面の集まりを復活させることが魔法の解決策である、というのだ。それは本当だろうか。

 完全にそうだとはいえない。まず、さまざまな調査が一貫して示しているのは、人々は自分が働く場所に関して、柔軟性と選択の自由を「より」求めていることだ。リモートワークが行える環境は、かつてなく重視されている。特に若い世代でこの傾向が顕著であることを考えると、今後も続いていくだろう。

 リモートワークやハイブリッドワークを引き続き、積極的に導入している企業であっても、リーダーたちは「対面学習の機会を復活させることで、一体感を高めたい」と望んでいる場合が多い。

 しかし、筆者らは学習の専門家として、対面学習、あるいはより広範に対面の体験がもたらす効果について、多くの神話を耳にする。本稿では、最もよく聞かれる4つの神話を払拭し、対面式の学習機会から得られる「つながり」を最大限に活かす方法を紹介したい。

 ●神話1「学習は、対面式のほうが効果が高い

 この神話には、どこか卑劣さを感じる。この神話を唱える人のほとんどは、本当にそう信じているのだとしても、実際のところ、学習効果についてそこまで大きな関心を持っているわけではない。ただ、人々を同じ場所に集めたいだけであり、そして「学習」という名目があれば、それを確実に正当化できるように感じるのだ。

 しかし、学習は対面式のほうが効果的であるという考えは、明らかに誤りだ。実際、対面学習の場合には有意義な実習やフィードバックの機会がほとんどないため、適切に設計されたバーチャルライブラーニングやeラーニングよりも効果が低いことが多い

 ●神話2「対面による学習機会は、組織文化の創造あるいは強化に役立つ」

「対面による学習機会は組織文化に大きく寄与するため、必要不可欠である」というリーダーの主張を聞くことが、ますます増えている。しかし、それが本当に真実かどうか、いったん考えてみる価値があるだろう。

 結局のところ、文化とは共有された信念、価値観、規範、習慣のことであり、これらは常日頃から集団の間で保持され、実践されるものだ。文化とは、私たちがいかに協働し、互いにどのような行動を期待し合っているかということであり、集団で追求する目標、そして課題や挫折に対応する方法を指す。

 言い換えれば、文化とは、私たちがある特定の会社で働く中で「一日中」「毎日」体験するものといえる。それは「いつもの」日常業務から離れて、豪華なビュッフェ式のディナーやドリンク付きのワークショップや基調講演に参加する時に体験する類のものでは、断じてない。

 人はしばしば、オフィス以外のソーシャルイベントやコミュニティイベントに参加した時の楽しい思い出を振り返るが、その後に一種の「ハロー効果」に陥るものだ。その体験が楽しく、参加する価値があったため、他の多くの点でも影響があったはずだと信じ込んでしまうのだ。

 そのようなイベントは確かに印象的で、文化を称える機会として記憶に残ることがある。しかし、文化が築かれる場でないことも、また確かだ。