1. すべてのプロジェクトに
サステナビリティ推進を組み込む権限を与える

 サステナビリティ改革の期間が10年あっても、企業のプロジェクトの多くは、サステナビリティ目標を中心に立ち上げられることはないだろう。組織は依然として、製品開発や組織再編、企業買収、事業拡張、新技術など、事業活動を構成するあらゆるプロジェクトに投資し続ける。

 プロジェクトマネジャーには、あらゆるプロジェクトの設計や計画、実施に、サステナビリティの要素を組み込むチャンスがある。リサイクル素材やグリーンエネルギー、サステナビリティに配慮したサプライヤー、水やエネルギーの使用量が少ない工程を採用し、そして使い終わった資源の活用法、あるいは廃棄に関する計画の中でサステナビリティの要素を組み込めれば、組織全体のカーボンフットプリントに大きな成果をもたらす可能性がある。

 プロジェクトマネジャーは、プロジェクトの成果物がサステナビリティにとって、プラスにもマイナスにもなる可能性があることを認識する必要がある。物理的な形を持たず、デジタルなものだからと言って、環境に与えるインパクトはゼロではないことを覚えておこう。テクノロジー記者のアンドリュー・グリフィンは、「IT業界のカーボンフットプリントは2%で、航空業界全体のカーボンフットプリントとほぼ同等」と指摘する。

 統括的なプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)があると、新規プロジェクト案を検討する際、非常に役に立つ。スポンサーとマネジャーに対する新たなガイドラインの策定を通じて、サステナビリティの成果や便益を重視したプロジェクト設計ができるようになるからだ。トリプルボトムライン(経済発展、社会発展、環境保護)や国連の持続可能な開発目標を、重点事項やプロジェクト選定協議に加えることがよい出発点になるだろう。

 現実的には、ビジネス上の戦略目標や業績目標を達成するために、サステナビリティの推進にとって好ましくないプロジェクト(水不足の地域に新しい工場を建設するなど)を実施しなければならないこともあるだろう。このような場合、PMOはプロジェクト評価の際、オフセット(相殺)または浄化の費用を事業計画に加えるべきである。

 プロジェクト自体が持続可能なものではない場合も、プロジェクトマネジャーはサステナビリティへの意識向上を図ったり、より全体に配慮した投資観を持ち込んだり、プロジェクトを取り巻くステークホルダーの管理の問題に備えたりしなければならない。最終的に、この種のプロジェクトに関する決定は、経営陣が下す必要がある。

2. サステナビリティ改革を目標とする
プロジェクトを設計し、支援する

 現代において、サステナビリティ改革がビジネスに付加価値をもたらすことは間違いない。そのペースはプロジェクトによって異なるが、全体として、コスト削減やリスク削減、イノベーションの増加、そしてブランド価値の向上につながる。

 プロジェクトマネジャーは、以下の4つの方法を使って、サステナビリティ改革に勢いをつけて支持を集め、持続させることができる。

(1)サステナビリティプロジェクトに関する誤解を払拭する

 サステナビリティには、2つの根深い誤解が存在する。プロジェクトマネジャーはそれらの誤解を解く準備をすべきである。まず、グリーンやサステナビリティは、成長とゼロサムの関係にあるという誤解がある。実際、多くのサステナビリティ関連プロジェクトは、短期的にもコスト削減につながる。

 グリーンイニシアティブの中には、効率改善や省エネ、廃棄物削減につながるものがある。もちろん、サーキュラリティ(循環性)、グリーン調達、サプライチェーンにいる労働者の生活と賃金の改善など、さらにコストがかかる可能性があるプロジェクトもある。しかし、こうしたイニシアティブは、迅速に恩恵をもたらすものであれ、長期的に価値をもたらすものであれ、コストではなく、投資としてとらえるべきだ。

 第2の誤解は、大がかりな改革や投資やリソースがなくても、グリーンとサステナビリティの成果をもたらすことができるというものだ。しかし実際に、組織のオペレーションや生産活動や販売方法を根本から変えるためには、大きな資源配分の変更が必要だ。

 デンマークのコンテナ海運最大手マースクや、サウジアラビア国営石油会社のサウジアラムコ、スターバックスなど、この分野のリーディング組織は、2030年の目標を達成するため、すでにサステナビリティプロジェクトへの数十億ドルの新規投資を発表している。