HBR100周年、最も影響力が大きかった論文とは何か
Israel G. Vargas
サマリー:米国HBRが100周年を迎えた。本稿では100周年を記念して、この100年間のうちに公開された多数の論文から、数多く読まれ、大きな影響力を発揮し、シェアされた論文を紹介する。

HBRで最も読まれ、影響力があり、シェアされた論文

 読者にとって時間は貴重であり、真に有益な論文にしか時間を割かないことをHBRは承知している。読者が取り組んでいる問題への解決法を示し、好奇心をそそり、感情に訴えかけ、読者と読者のチームと組織に今後の正しい方向を示す論文であらねばならない。

 本稿では、HBR創刊100年を記念し、長年にわたり読者から好まれた論文を集め、「最も読まれた論文」「最も購入された論文」「最もシェアされた論文」、そして読者の人生やキャリアに最大のインパクトを与えたとされる論文(「最も影響を与えた論文」)に分けて紹介している。

 複数の分野で選ばれた論文もあり、それぞれの筆者のアイデアがいかに幅広く共感を呼んだかを示している(たとえばマイケル E. ポーター)。ただし本稿では、論文は1回のみ取り上げている。このリストからいくつかの時代をざっと振り返ると、現在のビジネスにおける手強い課題の多くは、数十年前と変わっていないことが確認できる。

 100年にわたるご愛顧に御礼申し上げる。

 なお、数値の計測は米国HBRでの計測をもとにしている。

最も読まれた論文

 以下は、実践的なものから思想的なものまで、オンライン上で掲載した中で、クリック数が最も多かった論文(記事)である。

 

That Discomfort You're Feeling Is Grief

「その不快な感情の正体は『悲しみ』である」

 2020年3月、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るうなか、我々の多くはみずからと他者の健康ために引きこもって生活することが必要だと悟った。学校、職場、店舗は閉鎖され、スポーツ競技やコンサートは中止された。旅行、結婚式、同窓会などもキャンセルされた。これらすべてを失うことはつらいことだった。

 我々全員に共通する感情は悲しみだった。そこでHBRは、悲しみにどのように対処すべきかを学ぶために、この分野の第一人者(デーヴィッド・ケスラー)に話を聞いた。この記事は約900万回読まれ、これまでで最も人気のある記事となった。

 

What So Many People Don't Get About the U.S. Working Class

「トランプ勝利の必然:『白人労働者階級』の怒りを直視せよ」

 2016年の米国大統領選挙直後に掲載されたこの論文は、ドナルド・トランプがどのようにして共和党支持者の票を獲得できたのか、なぜ多くの民主党支持者がそれに驚愕したのかを分析している。

 著者で法律学の教授であるジョーン C. ウィリアムズは、「その根底にあるのは階級間の文化的断絶である」と記している。また、「その断絶についてあまり知られていない要素は、白人労働者階級が、プロフェッショナル(高度の専門職従事者)を快く思っていない一方、富裕者には尊敬の念を持っている」ことだとしている。

 

15 Rules for Negotiating a Job Offer

「就職・転職時の条件交渉に役立つ15のルール」(未訳)

 就職・転職時の条件交渉は複雑になりうるが、いくつかの戦術を習得することにより、成功確率を高めることができる。2014年のHBRに掲載されたハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の教授であるディーパック・マルホトラの論文は、交渉過程で常に役立つ指針となっている。

 

How to Write a Cover Letter

「履歴書に添えるカバーレターの書き方」(未訳)

 カバーレター(送付状)は過去の遺物ではない。この論文がこれほど多くの新規読者を引き付け続けていることが、その証拠である。HBRの編集者であるエイミー・ギャロは、何人かのエキスパートからの助言をまとめてこの包括的な手引きを制作した。特に重要な点は何か。最初の一文で注意を引き付け、仕事に合った売り込み文句を作成し、その会社が抱える問題の解決にいかに役立てるかを示すことである。

 

Why Do So Many Incompetent Men Become Leaders?

「仕事ができない男のこれほど多くがリーダーになるのはなぜか」(未訳)

 女性リーダーは男性リーダーよりも少ないが、それは資格の面で女性が劣っているからではないと組織心理学者のトマス・チャモロ=プレミュジックは説明している。むしろリーダー像に関して我々が持つバイアスのせいである。男性は自信に満ちた印象を与える傾向があるため、実際はそうでなくても有能だと人に判断させることになる。

 2013年の発行以来、数百万人に読まれたこの論文は、そうした状況が男女平等の推進に不利益なだけでなく、企業に実質的な損害を与えるのはなぜかを論じている。