違反行為に対して、適切に処分を行う

 パーパスや価値観のように、企業のアイデンティティに関わるステートメントは、聖域にしなければならない。それが、参加しても参加しなくても構わない「ボランティアプログラム」になった瞬間、会社が本気ではないと従業員は解釈するだろう。

 筆者の一人であるカルッチが、3200人以上のリーダーを対象に実施した15年間の縦断研究では、言行が一致しない企業では、従業員が不誠実になる可能性が3倍高まることが明らかになった。言行不一致の姿勢から「この会社は、言っていることとやっていることが違う」ということが、従業員に伝わるのである。

 パーパスが実質的な意味を持つには、パーパスと矛盾する、あるいは合致しない行動を取った人への対応が必要になる。

 リーダーは、企業のパーパスを堕落させるような有害な言動に、勇気を持って立ち向かわなければならない。そのような人がいた場合、行動を変えるようにコーチングするか、さもなければその人自身を排除する必要がある。リーダーシップチームは、いかなる個人の貢献よりも、パーパスによって創造される文化を重視しなければならない。

 筆者のリッジは、WD-40のCEOに着任するにあたり、リーダーに対して、部下の能力を開発し、そこに投資することを期待していると最初に言明した。能力を開発できずに従業員を解雇したならば、その部署の最上位のリーダーを解任して「競合他社に分け与える」と宣言したのである。

 リッジが言行一致を試されたのは、まだ就任からまもない時期に、ある従業員が解雇されたことを知った時だった。まず、その従業員の直属の上司と会い、能力開発プランを見せるように求めたが、そもそもプランが存在しないことがわかった。リッジは約束通り、直属の上司や解雇された従業員よりも数段高い階層にいる、最上位の責任者のところに赴き、その人物を解任した。

 あまりにも厳しい措置に聞こえるかもしれないが、パーパスに基づく原則に忠実であろうとするならば、あなたが本気であると従業員に理解させることが欠かせない。聖域とする原則が破られた時の対処の仕方によって、確固たる姿勢で原則を重んじていることが従業員に瞬時に伝わる。

 リッジは期待を明確にし、期待を満たすために必要なリソースをリーダーに提供した。失敗が生じた時には、事前に予告した通りの対応を貫いたのだ。

難しいトレードオフを実行し、伝える

 パーパス実現を目指した、短期的および長期的な取り組みに投資する際には、難しいトレードオフを迫られることが少なくない。真にパーパスドリブンでいることはロングゲームであり、時には素晴らしいアイデアに対してもノーと言うことが、パーパスを持続させるカギになる。そのようなトレードオフをなぜ行うか、あるいはどのように行うかについて、明確で透明性が担保されていることが、従業員との信頼関係を維持するうえで欠かせない。

 多くのエグゼクティブは、従業員を失望させることを恐れて「イエス」を多発する。その結果、多くの優先事項に振り回され、本当のパーパスに対するコミットメントが曖昧になり、企業としての焦点がぼやけ、リソースが希薄化する。

 たとえば、WD-40のコアコミットメントの一つは、絶対に発がん性物質を製法に取り入れないことだ。がんは「ポジティブでいつまでも残る記憶」から、最も遠いものだからである。したがって、サプライチェーンの一翼を担う同社の従業員は誰しも、発がん性物質の使用による大幅なコスト削減の機会を提示されても、迷うことなく即座に「ノー」と答えるだろう。たとえ、収益性や株主利益を向上させるチャンスだと言われても、である。