戦略ドリブンのパーパスに沿って行動し、
便乗主義に陥らない
先に挙げたような利益が得られるため、リーダーは安易にパーパスに便乗しがちだ。しかし、世の中の人々は、うわべだけパーパスを取り繕う「パーパスウォッシング」をすぐに見破るようになっている。マーケティング担当者は、ブランドや企業のオーラを演出しようとして、あの手この手で善意に満ちたナラティブを紡ぎ出す。だが、従業員や消費者は簡単には騙されない。
企業のパーパスに関する研究によれば、消費者の84%は購入の際に信頼性を考慮するが、購入しているブランドを実際に信頼しているのは34%にすぎず、53%の消費者は企業がパーパスウォッシングをしていると思っている。
リーダーシップチームは、従業員がポジティブに行動し、業務を遂行するように、戦略と合致した自社ならではのパーパスを策定する必要がある。
筆者の一人であるリッジはWD-40のCEOを25年間務めたが、同社のパーパスは「世界中の工場・家庭・作業所の問題を解決し、ポジティブでいつまでも残る記憶を創造すること」だ。その狙いは、企業文化の中に強い帰属意識を生み出すことだった。
このパーパスが誕生したのは、すでに長く残る記憶を創造してきた同社の実績に由来する。「父と一緒に自分の自転車を修理した時のことを思い出します」といった話を、何度となく顧客がしてくれたのである。
このパーパスには、WD-40ならではの独自性がある。というのも、同社では長年かけて、強い帰属意識を持つ「トライブ・カルチャー」の醸成に取り組み、それが傑出した業績につながってきたからである。
同社の戦略目標にとって不可欠な要素は、独自性があり、価値が高く、信用を植えつけるようなソリューションを提供することだった。そのようなソリューションを創出するのに最適な環境とは、周囲から信頼され、自分でも自信があると感じられる環境である。
ステークホルダーの相入れない期待に対処する
企業においてエグゼクティブチームほど、数多くのステークホルダーからの要求、それも相反することが多い要求に直面する集団はない。
顧客や株主、取締役会、サプライヤー、地域社会、政府や規制当局、そして当然ながら、従業員も無限に要求を突きつけてくる。あちらを立てれば、こちらが立たない。そのような状況で、期待に上手に対処することは、特に厳しい局面においては、完全に信用を失なわないためにも重要である。
強力かつ明確なパーパスは、企業が何を象徴するかを定義する。パーパスは、すでに決定したことの蒸し返しや問題の再発を減らし、意思決定のスピードを高めるものでなくてはならない。たとえ、意思決定の内容が一部のステークホルダーからの期待に沿わない場合であっても、決定の背景が明確かつ企業のパーパスにひも付いているならば、落胆しているステークホルダーたちも折り合いをつけられるだろう。
「なぜ、そう決めたのか」という問いに答えられなければ、大きな不満が残る。パーパスは「なぜ」という問いに、すぐに答えを出せるものでなければならない。