テック企業の人員削減が伝統的な企業に好機をもたらす
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サマリー:テクノロジー業界における一連の大規模なレイオフは、伝統的な企業に世界最高レベルのデジタル人材を採用できる絶好のチャンスをもたらしている。この機会を活かすには、どのような点を重視すればいいのか。本稿では... もっと見る、まず一連の人員削減が行われている理由を明らかにする。そして伝統的な企業がこの雇用市場への人材流入から恩恵を受けるためにできることを提案する。 閉じる

大規模なレイオフで
優秀な人材が雇用市場に流入

 アマゾン・ドットコムやメタが数万人規模で解雇を行うなど、テクノロジー業界における一連の大規模なレイオフは、従業員を増やしたいと思いながら人材不足のためにかなわなかった企業にとって、信じられないようなチャンスを生み出している。ビジネスプロセスの近代化に苦労してきた伝統的な企業も、世界最高レベルの人材にアクセスできるようになった。そして、従来は魅力的なシリコンバレー企業の採用戦略に太刀打ちできなかったが、いまでは解雇された技術者にキャリアを続ける命綱を提供できるようになったのだ。

 最近の人員削減は、伝統的な企業にとって大きなチャンスだと筆者らは考える。世界有数のテック企業の元従業員を勧誘して採用することは、競争の少ない市場で新しい人材へアクセスできることを指す。このような人材は、停滞したビジネスモデルをデジタル的でアジャイル(敏捷)なモデルに転換し、激動するビジネス環境に備えるための戦力になる。

 本稿では、まず一連の人員削減が行われている理由を明らかにする。そして、テクノロジー業界以外の企業が、突然起きている人材の流入から恩恵を受けるためにできることを提案する。

過剰雇用の反動

 私たちはいま、パンデミック下で起きた過剰雇用の大規模な反動を目の当たりにしている。メタのCEOであるマーク・ザッカーバーグは、最近の人員削減に関して、従業員に宛てたメッセージの中で次のように述べている。

「新型コロナの感染拡大が始まって、世界は急速にオンライン化し、eコマースの急増によって売上げが大幅に増加した。多くの人が、パンデミック後も恒久的に加速し続けるだろうと予測した。しかし残念ながら、私の予想どおりの展開にはならなかった」

 決済システムを提供するストライプのCEOであるパトリック・コリソンも、14%の人員削減に当たり、同様の声明を発表した。

「2020年にパンデミックが始まった時、世界は一夜にしてeコマースに転じた。2020年から2021年にかけて、それまでと比べて著しく高い成長率を実現した。そして世界はいま、再び変化している」

 テクノロジー業界は、急激な金利の上昇に備えていなかった。金利の上昇は、遠い将来に利益が発生する企業の評価額を大幅に引き下げた。これは評価額の計算に関係する割引率が、金利の上昇に伴って上がるためだ。

 テック企業が多いナスダック総合指数は、この1年で約30%下落した。より積極的なテクノロジー業界偏重のファンドについては、キャシー・ウッドが率いるアーク・イノベーションが65%下落するなど打撃を受けている。多くのフィンテック系ファンドや暗号資産系ファンドは、破綻した。スタートアップの動きは止まり、新規株式公開はほぼなくなった。こうした状況は、資本を必要とするテック企業の成長計画に影響を与え、当面は採用を縮小している。

 しかし、これらの問題は、健全なファンダメンタルズを持つ伝統的な企業には影響がないはずだ。少なくとも、テック系スタートアップほど打撃を受けることはないだろう。ほかのタイプの景気後退とは異なり、事業運営に不可欠ではない職務が削減されるものの、昨今の人員削減で解雇されている従業員は、需要が高いさまざまなスキルを提供できる。アマゾンは、音声技術や人工知能(AI)、オートメーション(自動化)などの技術を扱うアレクサ部門の従業員を解雇している。ツイッターは、倫理的AIやデータサイエンス、機械学習、エンジニアリングのチームから人員を削減している。