経済の変動は常にビジネス課題をつくり出すが、現在の課題のほとんどはDXで軽減することができる。たとえば、不況に突入し、現在のインフレ環境が続けば、顧客は裁量的な支出を変えざるを得なくなる。そこで小売業者は、機械学習や柔軟なシステムなどのテクノロジーを開発し活用することによって、購買のパターンを特定し、購買行動を理解して、プロモーションや割引を調整し、商品のパーソナライズやリアルタイムな価格設定を行う。このような取り組みによって、目まぐるしく変わる需要や顧客の好みと供給のバランスを取ることができる。

 こうした機会は、あらゆる業界に何らかの形で存在している。しかし、そのためのテクノロジーを実装できる従業員がいなければ、その恩恵にあずかることはでない。幸いなことに、現在はそのような人材が大量に市場に出てきている。

テック企業から人材を引き抜く

 人材の供給源は、最近解雇された人だけではない。テック企業にまだ在籍しているが、不安定な立場から離れたいという人を引き抜くことも考えていこう。テック企業がR&Dや新規プロジェクトから撤退し、人員を減らして、給与やボーナスをカットし、株価の下落によってストックオプションも減少するなか、現在雇用されている従業員も、より安定した雇用機会を求めている。

 インドや中国などから来て米国のテック企業で働いている人々は、特殊技能職のH-1Bビザで滞在している。解雇されると、60日以内に再就職先を見つけなければ、ビザを手放して出国しなければならない。H-1Bビザで働いていて、まだ解雇されていない人の多くが、今後の見通しに懸念を抱いていることだろう。

低迷するテック企業を買収する

 現在は、伝統的な企業がテック企業を買収し、その資産を破格の金額で手に入れられる好機でもある。事業を維持するための資金調達に苦労している企業は、特に買い時だろう。

 買収には「アクハイアリング」という形式もある。つまり、人材を獲得するための企業買収だ。たとえば、スタートアップが持っている特許が、買収する企業にとって貴重な資源になるかもれない。新しいビジネスのアイデアを膨らませてブランドを立ち上げたものの、大々的に展開するための資金やマーケティング力が足りないスタートアップもあるだろう。買収する企業は、こうした貴重な資産を割安な価格で手に入れ、その価値を解き放つことができる。

 歴史が繰り返し証明してきたように、不況や困難な時代には、機会を逃さずに、適切な資産や顧客、人材、能力を適切な価格で獲得した企業が勝ち組になる。昨今の人員削減は、まさにそのような時機だ。


"Tech Talent Is Flooding the Job Market," HBR.org, November 22, 2022.