アンビバレンスの不快感に対処する

 アンビバレンスは、一貫性を求める欲求に反するため、不快に感じる人が多い。そして、人は時に、その不快感に対して最適とはいえない形で反応してしまう。できるだけ早く不快感を回避または最小限に抑えるために、不完全な、あるいは過度に単純化された情報に基づいて衝動的に判断を下したり、決断をできるだけ先延ばしにしたりするのだ。

 レイチェルの例を見てみよう。彼女は一流のコンサルティング会社で憧れの職に就いていたが、毎週のように出張が続くことに不満を募らせていた。やがて彼女は「この状態を今後も続けたいだろうか」と自問するようになった。

 まず、自分がこの仕事で好きな点は何か考えた。思い浮かぶのは、知的で寛大な同僚たち、知的な成長の機会、同業者からの尊敬であり、どれも職業人としての彼女を支え、プロフェッショナルとしての目標達成をサポートしてくれていた。

 次に彼女は、現状における嫌いな点を考えた。頻繁な出張による孤独と虚しさ、空港の状況や天候によって自分のスケジュールが左右されること、愛犬と物理的に離れてしまうこと、外食が続くこと──どれも、彼女の仕事以外における自己を消耗させ、個人としての目標達成を阻んでいた。

 この緊張状態がピークに達すると(定刻を過ぎても滑走路に留まっている飛行機内にいることが多かった)、レイチェルは打ちのめされた気分に陥り不安を募らせたが、必死で葛藤を無視して忘れようとした。しかしその後、上司から昇進試験に応募するよう求められると、毎週のように「もう少し考える時間をください」と言い続けていることに気づいた。結局、何カ月も先延ばしにした末に、彼女は会社を去ることになった。

 アンビバレンスへの対処法として、このアプローチには危険が伴う。決断までに数カ月など長い期間を要することで、目の前のことへのエンゲージメントが低下し、さらには人生の満足感さえも奪われてしまうという問題がある。また、アンビバレンスを回避するためのこうした行動は、自身のアイデンティティの重要な側面を矮小化し、犠牲にすることにもつながりかねない。

アンビバレンスに対抗せず
うまく付き合う

 もっとも、キャリアの転換点でアンビバレンスがピークに達していたとしても、必ず機能不全に陥るとは限らない。

 筆者の一人であるブリアンナは、自身の複雑な感情を受け入れ、昔からの考え方に縛られないオーセンティックなキャリアパスを実現することが、長期的にポジティブな結果につながることを追跡調査によって示してきた。

 また、同じく筆者の一人であるナオミの研究は、アンビバレンスに向き合うことが自己洞察とオーセンティシティにつながる理由を理解する一助となる。彼女のある研究では、複雑な感情や矛盾する思考を頻繁に経験している人は、人生をコントロールできているという感覚があまりないと答えた一方、オープンマインド、好奇心、視点の切り替えといった面では高い水準にあることが明らかになった。また、アンビバレンスは、別の視点をより積極的に求め受け入れる姿勢、および他者からのフィードバックへの自己防衛的な反応の減少と関連しており、その結果、判断の正確性が高まることも示されている。

 さらに、他の研究者が行った調査でも、複雑な感情が状況の複雑さを知らせる役割を果たし、創造性の向上につながることがわかっている。

 アンビバレンスを受け入れる術を身に付ければ、さまざまなキャリアの選択肢とオープンに向き合えるようになり、やがてはこの不安をよりオーセンティックな生き方、働き方に向かう成長の印ととらえられる日が来るかもしれない。