ステップ2:自分に時間を与える

 筆者らの最近の研究によって、内的か外的かを問わず、早急に結論を出さねばならないというプレッシャーがある場合には、アンビバレンスのメリットが失われることが明らかになった。

 可能であれば、近い将来ではない時期に期限を設定し、自分の感情に耳を傾け、代替案を検討することに時間とエネルギーを割くべきだ。そうすることで、アンビバレンスから得た情報を抑えつけるのではなく活用し、より多くの情報に基づいて意思決定を行えるようになるだろう。

 筆者らが行った最近の研究において、ある参加者がこの方法を実践していた。その女性は、非営利部門で働くソーシャルワーカーとして経験を積んでいた(職業上の目標)が、学生ローンを返済できていない(個人的な目標)という状況にあることを打ち明けた。彼女は2つの目標が矛盾しているように感じ、自身の状況にアンビバレントな思いを抱いていた。

 彼女は当初、この対立をどう解決すればいいのかわからず、行き詰まりを感じていたが、自分なりのタイミングで──次のステップを決めなければならないというプレッシャーを感じる前に──、企業を含むさまざまな部門の人に話を聞くなどして情報を収集した。集めた情報によって、可能な選択肢や手段についての視野が広がると、彼女は企業という場でもやりたい仕事ができる──そして、学生ローンを返済できる(統合的な成果)──ことに気づいた。

 つまり、自身の抱えていた対立について問い直し、それを他者に話すことで、2つを「両立」する道を見つけたのだ。

ステップ3:何事も永遠には続かないと自分に言い聞かせる

 キャリア上の決断を一度下しても、それが永遠に続くわけではないという点を忘れないことが重要だ。代わりに、これは「当面」の判断だと考えよう。キャリア関連の決断のよい点は、たいていの場合、元の状態に戻せる、あるいは少なくとも回復可能なことにあり、今後も常に新たな決断が待ち受けている。

 こうした思考の枠組みを身につけるための実用的な手段として、自分よりもキャリアを積んだ人や退職した人とつながるといい。彼らは1度の決断が永遠に続くわけではないことをよく理解しており、経験者ならではの知恵で、あなたのより柔軟なキャリア構築を支援してくれるだろう。実際、労働力の世代間格差に関する最近の研究によって、年齢の多様性がチームの意思決定を改善することが示されている。

                 * * *

 キャリアの転換点は、人の複雑さの表れだ。しかし世間では、アイデンティティの面でも感情の面でも、複雑さに否定的な目を向ける風潮が強い。そのため私たちは、自分を一貫性がなく、適切な優先順位を付けられず、決断のできない人間だととらえてしまう。その結果、アンビバレントな感情を最小化、または回避するようなキャリアの決断を下す人が現れるのだ。

 しかし、長期的な視点で見れば、アンビバレンスは非常に機能的なものであることが研究によってわかっている。複雑な感情を考慮したうえで決断を下せば、より満足度の高い、オーセンティックなキャリアを構築できる。そして、多くの(競合するように思える場合もある)目標やアイデンティティの中から一つを選ぶよう強いるのではなく、それらを統合するような決断を下すことができる。

 一言で言えば、キャリアにおけるアンビバレントな状況を厳然たる事実だと受け入れられれば、自身の複雑な感情を成功のチャンスと見なし、活用する道が開けるのだ。


"Embrace Ambivalence When Making Big Career Decisions," HBR.org, November 24, 2022.