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次々と危機に見舞われると、人々は脆弱になる
「毎日が軌道修正の連続です。予定を取りやめたり、物事の優先順位を変更したり、後から部下の仕事にあれこれ文句を言ったりするばかりです。このような状態が精神的負担になっています。努力を重ねてチームメンバーとの良好な関係を築いてきたのに、それを自分が台無しにしているような気がしてなりません」
ある経営幹部の一人はコーチングの中で、このように筆者に語った。「ここで少し立ち止まり、経済環境が厳しい時期によいリーダーであるために、どうすべきかを考えたいのです」
理屈上では、この人物は、よいリーダーに期待される行動を取っていたはずだった。それまでより現場に直接関わり、メンバーに近い場所で活動し、行動のペースを加速させ、メンバーにより多くの仕事をこなすように求めた。これらは、景気悪化に備えるための戦略として、効果が実証されている定番のものだ。
しかし、このリーダーは、行動を通じてエネルギーと自信に満ちるどころか、逆に疲弊してしまった。それは、部下も同様だった。彼らは、冷え込む景気から自分たちを守ってくれる要塞を築こうとして頑張れば頑張るほど、自分たちの大切な家を焼き払っているように感じたのだ。
コロナ禍の影響がいまなお続く中で、今後の景気後退を予測する経営幹部やマネジャーの中には、同じように感じている人が少なくないだろう。一般に、危機を経験するたびに人はより強くなり、対処能力も増すと思われている。しかし、現実は違う。次々と危機に見舞われると、人はより脆弱に、そしてより不安定になる傾向がある。
そのような状態に陥ると、非常に手ごわい問題が発生する。つまり、通常の危機対応策を実行しても、期待される成果が得られないのだ。実際、冒頭で紹介した経営幹部のように、リーダーが標準的な戦略をそのまま実行すれば、破壊的な負のスパイラルに陥り、問題がさらに深刻化しかねない。
この時代にリーダーとして成功するには、3つの点でのバランスを取る必要があると、筆者は考えている。まず、部下に息苦しい思いをさせることなく、現場の近くで行動すること。次に、取り乱すことなく、素早く行動すること。そして、部下との関係を壊すことなく、多くの仕事を引き受ける、あるいはメンバーに割り当てることである。