部下との関係を軽んじ、業務負担を増やす
景気後退期にリーダーが示す3つ目の典型的な反応は、課題にばかり目が行くようになり、部下との関係を疎かにするというものだ。冒頭で紹介した経営幹部がそうだったように、チームメンバーに課す業務を増やそうとするリーダーは多い。課題リストは長くなる一方だ。「より多く」を追求することにより、安心感が強まり、責任あるリーダーシップを振るっているように感じられるからだ。
また、「いま大事なのは、問題を解決することであって、部下を甘やかしている場合ではない」といった言葉も、よく聞かれる。その結果、オフィスから離れた場所で行われるオフサイトミーティングや、従業員の能力開発プログラムは取りやめになり、福利厚生は削減され、礼儀や思いやりはないがしろにされてしまう。
しかし、部下との関係を重んじることは、部下を甘やかすこととは違う。それは、パフォーマンスマネジメントの手立てにほかならないのだ。
優秀なメンバーが退職したり、「静かな退職」(クワイエット・クイッティング)をしたりする本当の理由について、コロナ禍の経験を通じて見えてきたことがある。仕事が難しくなったり、経済環境が厳しくなったりしたことが理由になっているケースはほとんどない。
人々は、リーダーや同僚、そして会社の未来に対する信頼を失ったことで、会社を去る。そして、職場で不公正な扱いを受けたり、無視されたりしていると感じることで、退職に至らないまでも、必要以上に頑張ろうとはせず、決められた範囲の仕事を淡々とこなすようになる。
たしかに、人がオフィスに出勤する目的の一つは、自分に課されたミッションを成し遂げ、タスクを終わらせることにある。しかし、彼らはそれ以上に、職場の同僚とのつながりやコミュニティ意識を求めている。
したがって、人間関係の構築に対する投資を止めてはならない。以前ほど豪華な福利厚生は提供できないかもしれないが、人と人とのつながりを生み出すために時間を投資することはできるはずだ。交流の場については贅沢をせず「3つ星」に格下げしてもよいので、内容と影響力については「5つ星」の交流を実践する。
その一環として、人間関係と課題の優先順位との間で、バランスの取れたアプローチを採用する必要がある。チームに対しては、リーダーとしての考え方を明確に示さなければならない。
厳しい状況下で、職場にはどのような人間関係が求められているか。チームメンバーがどのようなチャレンジとサポートを期待しているか。短期的な成果が期待できたとしても、どのような点で人間関係を犠牲にしたくないと考えているか。これらに関して、透明性を確保するのである。
景気後退が長引く中では、チームメンバーとともに一歩引いて考え、何をもって成功と見なすのかを再定義することが欠かせない。その際は、業務上の課題だけではなく、職場の人間関係についても、成功の意味を見直すことが重要になる。
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不景気の時に、よいリーダーであることは、いつだって難しい。いまは、それがひときわ難しくなっている。景気悪化に加えて、コロナ禍による感情面の混乱が複雑に絡み合っているからだ。つまり、リーダーは標準的な危機対応策をそのまま実行するのではなく、慎重かつ注意深く思考をめぐらせる必要がある。
リーダーは、景気後退期に立ち止まることはできない。しかし、衝動に駆られて行動したがる傾向、すなわち、みずからが現場に直接関わり、行動のペースを加速させ、メンバーの業務負担を増やそうとする傾向は、制御すべきだ。このような反応自体は、自然なものであり、まっとうなものだが、バランスを欠けば、かえって危機を増幅させかない。
"How to Be a Good Leader in a Bad Economy," HBR.org, November 29, 2022.