行動することに前のめりになる

 リーダーが示す典型的な反応の2つ目は、行動することに前のめりになるというものだ。この反応自体は、健全なものといえる。危機の時、リーダーは手をこまねいているわけにはいかない。とにかく時間がもったいないと感じるようになる。その結果、目まぐるしいペースで会議が進み、リーダーの声色に焦りが表れ、態度も落ち着かなくなる。

 しかし、切迫感を持って課題に取り組むことと、取り乱して行動することは、似て非なるものだ。リーダーが知っておくべきは、コロナ禍をきっかけに、レジリエンスが高まるよりむしろ脆さが増した人が多いということだ。

 ストレスとメンタルヘルスの問題は、急増している。その結果、ほとんどの人が「危機下ではスピードが重要だ」と理解しているにもかかわらず、強引なリーダーに対する人々の耐性は、2020年以前に比べて、はるかに弱まっている。

 この問題に対処するには、リーダー自身が厳しい経済状況において陥りやすい心理的な落とし穴を、確認しておかなくてはならない。よくある落とし穴の一つは、自分たちに与えられた時間が実際より短いと思い込むというものだ。それゆえ、実際より厳しい締切を、みずからに課してしまうのである。

「月末までに問題の解決策を見出さなくてはならない」と考えれば、切迫感を抱くことはできるかもしれない。しかし、あと数カ月費やせば、さらに好ましい解決策を見出せるのであれば、勝手に厳しい締切を設定することは逆効果と言わざるをえない。それと引き換えに得られるのは、スピーディーに行動しているという幻想だけだ。

 加えて、リーダーは厳しい状況に置かれると、異論に対する耐性が弱まることが少なくない。自分の考え方だけが正しいと決めつけ、自分のアイデアや提案に異論を唱えられると、それをすぐさま抵抗や妨害と受け止めてしまう。相手側も熟考のうえで、建設的なフィードバックをしてくれているとは考えられなくなるのだ。

 このような行動パターンに陥ると、チームメンバーのエンゲージメントが低下し、アイデアに対する「偽りのコンセンサス」が形成されるようになるのは、時間の問題だ。これにより、意思決定のスピードは早まるかもしれないが、人々の主体的な思考は阻害され、より優れた問題解決策が生まれなくなる可能性がある。

 バランスの取れたアプローチを取るには、アイデアを発案して、そのアイデアの採用を決定し、実行に移すプロセスに、意識的に時間を費やすことが欠かせない。衝動的な反応にブレーキをかける仕組みをつくるのだ。具体的には、取締役会、社外のアドバイザー、同僚や仲間など、誰か他の人にあなたのプランを精査し、疑問点を指摘してもらう仕組みやプロセスを用意する。

 といっても、官僚主義的なプロセスに延々と時間を費やすわけにはいかない。そこで、正式な制度や手続きを経るのではなく、素早く精査するプロセスを構築することだ。場合によっては、信頼できる誰かに電話をかけ、自分がやろうとしていることを説明し、相手の反応を見るだけでもよいかもしれない。