英語もデータ分析もゼロから学ぶ
松本: 海外に出ていきましょうとなった時、「日本国内でやっていることをそのまま海外で受け入れてもらう」か、「海外のやり方を自分が取り入れる」かどちらかしかありません。当時、事例研究といった定性研究はたしかに好きだったのですが、それをそのまま持っていっても、受け入れられにくいとは思っていました。海外ではスタンフォード大学教授のキャサリン・アイゼンハートなどが、定性研究を行っていましたが、質量ともにレベルが違いました。正直、そのまま日本で取り組んでいた研究を持っていっても通用しないと思ったんです。
そこで、せっかく海外を視野に研究をするのだったら、まずは長期間海外に滞在して、完全にあちらの流儀を学ぼうと考えたんです。「データ分析なんてけしからん」と言ってないで、まずは自分でできるようにならないと、何がけしからんのかもよく分からないので。
入山:すごいなぁ。
松本:実は、当時はそれがどのくらい無謀なことなのか、全然分かっていなかったんです。だから、怖いものしらずで飛び込んだという感じですね。
入山:海外学術誌への投稿を視野に入れて、そこからデータ分析を学び始めたと。
松本:いえ、実際には、そこからまず英語の勉強を始めて(笑)何なら一言もしゃべれなかったんです。
入山:すごい!そこから、海外のトップ学術誌に載ったんですか!
松本:英語は読むのはできるけど、じゃあ、しゃべりなさいって言われると一言も出てこないという……まあ、日本人に多いタイプでした。だから、まず英語の勉強を始めまして。最低限しゃべれるようになってから、海外に行こうということで、それなりに英語の勉強には時間を取られました。
入山:ちなみに英語はどうやって勉強されたんですか。
松本:もうひたすらTOFELのスコアを上げるために、TOFELの勉強をするっていう……。で、しゃべれないので、研究室で毎日2~3時間、英語でぶつぶつつぶやいて……(笑)
入山:すごいなあ。ヤバいですね、松本先生(笑)
松本:振り返ってみると、異様ですよね。
私の世代は、事例研究をメインに行う研究者たちの一番後ろにくっついていた世代です。次の世代の人たちは、データ分析もそれなりにこなして、海外を一応視野に入れながら大学院生時代を過ごしていました。私は一番後ろにくっついたまま行くか、新しいほうに乗り換えるかの過渡期にいて、乗り換えることを決めました。だから、ゼロからまたやり直しといった感じでしたね。
入山:長期間の海外滞在は、どちらに行かれたんですか。
松本:シンガポール国立大に2年間行きました。
入山:だから、SMJの論文は、シンガポール国立大のセ・ジン・チャン先生との共著なんですね。
松本:そうです。
入山:慶應で博士を取って、組織学会で高宮賞まで取って、国内で優れた業績を積み上げてこられた。そこから、これからは英語とデータ分析だからとシンガポール国立大へ行かれて、2年間Ph.D.の学生をやり直すも同然で修行したということですね。
統計分析も、英語と同じ頃に、勉強し始めたんですか。
松本:そうですね。ただ、本格的に勉強を始めたのは、シンガポールに行ってからです。だから、統計分析は日本語で勉強したことがないんです。
入山:それもすごい話ですね。
松本:いま思えば、それがよかったのだと思います。日本語の教科書を読んで、知識をたくさん仕入れることはできると思います。ただ、実際に研究で使うとなると、そのプロセスはちょっと遠回りしている感じもあるので。