なぜインフレが起きるのか
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サマリー:インフレとは何か。本稿では、足元で進行しているインフレのメカニズムを解説する。2008年の世界金融危機以降、投資家と経営者は低金利と低インフレに慣れきっていた。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック、そ... もっと見るしてロシアによるウクライナ侵攻などにより、急速に予想を超えるインフレが起こった。インフレのメカニズムを改めて把握することで、インフレへの対処と予測を検討することが可能になる。 閉じる

インフレの原因と対処法

 2008年の世界金融危機が大不況を引き起こして以降、投資家と企業経営者は、低金利と低インフレの時代に慣れっこになっていた。しかし、そのような時代は終わった。2021年には、世界の多くの国で物価が急上昇しはじめて、米国は2022年に過去数十年で最悪のインフレを経験した。

 国際通貨基金(IMF)は2022年10月、インフレの進行──そして、各国の中央銀行がインフレ対策のために実行する金利の引き上げ──により、グローバル経済全体に深刻な影響が及びかねないという趣旨の警告を発した。そこで、インフレは何が原因で起きるのか、そして、インフレによって購買力が次第に失われていく状況にどのように対処すべきなのかを理解しておく必要がありそうだ。

インフレとは何か

 インフレとは、経済全体で物価水準が上昇し続けている状態と定義される。2022年には、インフレが世界経済の繁栄を脅かす重大な脅威の一つとして浮上した。

 商品やサービスの値段が上昇すると、お金の価値が以前よりも低くなる。そうなると、働き手は賃上げの要求を強める。そして、その結果としてますますインフレが進行する。

 特に、物価が急速に上昇しはじめると、経済の基本的な機能も崩壊しかねない。たとえば、「ハイパーインフレ」が起きている時期には、人々は賃金を受け取った瞬間にそれを使おうとする。お金を使うのを先延ばしにすればするほど、商品やサービスの値段が高くなるとわかっているからだ。

 そこで、中央銀行はたいてい、物価上昇率の目標値を設定し、金利を使ってその目標通りのペースで物価が上昇するように導こうとする。少しの物価上昇であれば、それが多くの人の予想の範囲内に収まっている限り、一般的には害がない。米国の中央銀行である連邦準備理事会(FRB)は、年率2%の物価上昇ペースを目標としている。

 しかし、2021年春以降、米国や世界の多くの国では、この水準を大きく上回るペースで物価が上昇してきた。そこで、多くの国の中央銀行は、インフレ対策のために金利を引き上げはじめた。それにより、世界経済の成長が減速し、ことによると一部の国では2023年に景気後退が始まる可能性もある。

 中央銀行が行っていることの意味を理解し、それが企業活動に及ぼす影響を知るためには、まずインフレとはどのようなものか、インフレを引き起こす原因は何かについての基礎を学ぶことが有益だろう。