失業とインフレ
前述したように、インフレの根本原因は、供給に対して需要が多すぎることだ。これを別の角度から表現する場合、その時点で経済にどの程度の「
経済においては、人々の時間とアイデア、機械やその他のインフラ、それに天然資源を活用して、商品やサービスが生産されている。しかし、さまざまな理由により、生産能力をフル活用し、最大の生産量に至っていない場合がある。失業者が大勢いたり、製品をつくっていない工場があったりするのだ。
たとえば、2008年の世界金融危機の後、多くの国が失業率の高い状態に陥った。この状態においては、経済に多くの「余剰」が存在したといえる。多くの経済的リソースが活用されていなかったのである。
余剰が多い状況では、需要が供給を上回るリスクはほとんどない。したがって、インフレが起きるリスクも極めて小さい。需要が急激に増加すれば、失業していた労働者が雇用されたり、稼働していなかった工場が再開されたりして、生産量が増える。
インフレが起きるのはたいてい、経済が潜在力の限界近くに達していて、余剰がほとんどない場合だ。そのため、インフレは失業率が低い時のほうが起きやすい。労働者のほとんどがすでに職に就いている状況では、働く人たちは賃上げを要求しやすく、その結果、商品やサービスの値段が上昇しやすい。ところが、需要の増加に対処するために供給を増やそうにも、新たに採用できる働き手はあまり多くない。そうなると、「あまりに多くのカネがあまりに少ない商品やサービスを追いかける」状況が生まれる。
失業率が低い場合に、かならずインフレが起きるとは限らない。しかし、経済における生産能力が限界に近い状態で推移している時は、少なくとも短期的には、インフレを抑制することと、失業率を抑えることを両立させるのは難しい。
金利とインフレの関係
中央銀行は、需要とインフレをコントロールするために金利を用いる。インフレ率が高い時は、短期金利の誘導目標を引き上げる。金利が高くなると、企業と消費者の借り入れコストが上昇して、需要と投資が減少する。インフレは需要が供給を上回ることにより起きるので、需要を減らして供給と釣り合うようにすれば、物価を押し上げていた圧力を弱めることができる。
中央銀行が金利を動かす方法はいくつかある。米国で主要な方法は、「公開市場操作」と呼ばれるものだ。FRBの連邦公開市場委員会(FOMC)が金利の誘導目標を設定し、FRBが債券やその他の有価証券を売買して、マネーサプライと短期金利に影響を及ぼすことを目指す。