インフレ下のマネジメントはどうあるべきか

 よいマネジメントとはどのようなものかという点は、インフレ下でもほとんど変わらない。しかし、インフレの時期にマネジャーが心に留めるべきことがいくつかある。

 一つは、物価上昇の可能性にどのように対処するかという点だ。ミネソタ大学カールソンスクール・オブ・マネジメント教授のマーク E. バーゲンらは最近のHBRへの寄稿の中で、そのためのいくつかの戦略を紹介している。

 最も基本的な戦略は、いつ、どのように自社商品の価格改定を行うかについての方針をあらかじめ決めておき、その改定を行う際にかかるコストを抑えるために最善を尽くすというものだ。価格改定にかかるコスト(経済学の世界では「メニューコスト」と呼ばれる)は、時に極めて大きくなる場合がある。

 ダートマス大学タックスクール・オブ・ビジネス特別教授のビジャイ・ゴビンダラジャンらによるHBRへの寄稿も、インフレ下におけるマネジメントについての助言が示されている。その一つは、ふだん以上に社員とのコミュニケーションを図り、社員の士気を重んじよ、というものだ。労働市場が売り手市場の時期には、社員をつなぎ止めるために大きな努力をしなければならない。しかし、これは時として難しい。金利が上昇するため、資金調達のコストが高まるためだ(この点については後述する)。

 テクノロジー企業のCEO経験者で、ハーバード・ビジネス・スクールの上級講師を務めるルー・シプリーのHBRへの寄稿では、最も手放したくない社員を優先すること、そして組織文化を重んじることの大切さを説いている。組織文化は、社員をつなぎ止めるうえで極めて重要な意味を持つ。

 ここまで述べてきたのは、言ってみればインフレという病気そのものを乗り切るための方法論だ。しかし、それとは別に、この病気を治療するプロセスを乗り切るためのプランも持っておく必要がある。

 中央銀行はインフレを抑え込むために、利上げを行う。企業はそれを前提に、自社の戦略とオペレーションを見直さなくてはならない。金利が上がれば、借り入れのコストが増大し、投資家は概して短期の利益に関心が向くようになる。

インフレについてもっと学びたい人のためのリソース

 独立系エコノミスト団体「エコノファクト」のウェブサイトに掲載された解説記事(物価上昇の理由について)

 米国議会調査局によるリポート(米国におけるインフレについて)

 デヴィッド・モスの著書『世界のエリートが学ぶマクロ経済入門』(日本経済新聞出版社)


"What Causes Inflation?" HBR.org, December 23, 2022.