フレーミングの技術
このような障害を克服することは難しいが、フレーミングのスキルを身につけ、自分自身やチームの停滞感を解消することはできる。筆者らの経験では、以下の5つのステップをひな型として実践することで、リーダーシップに欠かせないフレーミングの能力を鍛え、難しい会話を表面化できるようになる。
ステップ1:停滞の原因を自分の中で見極める
リーダーとして踏むべき第一歩は、何が障害となり、進捗を妨げているのかを特定することだ。それは、隠れた緊張関係、一貫性のない行動、意見の相違、ネガティブな感情、消極的な同意、あるいは無意識のパターンかもしれない。
このステップでリーダーとしてなすべきは、何が起きているのかを自分自身で見極めることだ。「問題の核心は何か」「何がうまくいっていないのか」と自問しよう。
ステップ2:好奇心を持って状況を見つめる
次のステップでは、問題に対する自分の理解を広げる。そのためには、自分が「その状況を初めて目にする地球外生命体」になったつもりで考えるのがよいだろう。
「どのようなことに気づいたか」「問題が起きていると自分で思っていること以外に、どのような問題がありうるか」「それ以外に何か起きていそうなことはないか」などと自問する。状況を離れて見ることで、感情的になることなく、他の可能性を見つけやすくなる。
また、特定の視点や立場、結果を想定しないこのステップは、バイアスを防ぐ効果もある。それぞれの考えについて「もしかしたら」という言葉で始めよう。もしかしたら、真実は別のところにあるかもしれない。
ステップ3:気づいたことを判断せずに伝える
物事が行き詰まったり、何らか対処が必要にもかかわらず議論されたりしない状態になるのは、それを脅威か、取るに足らないか、単に間違っていると見なしているためだ。それを言語化し、判断せずに現場で掲げることが、関係者と議論を交わし、学び合う機会につながる。
このステップでは、自分が気づいた「停滞の原因」(ステップ1)を説明しなければならない。そのためには、「他の可能性」(ステップ2)も同等に妥当性があるものとして掲げる必要がある。このステップは通常、「私は○○に気づきました」「私は○○を目にしました」「どうやら○○のようです」「私は○○と聞きました」といった言葉で始める。
ステップ4:学ぶ意思を示す
このステップでは、相手にとって脅威となる可能性のある事柄について、リーダーとして話し合うために、心理的安全性のある「器」をつくるのが役割だ。
これは極めて重要なことである。なぜならば、変えることが困難な会話、特に意見の相違や対立を伴う会話に対して、人は反射的に自己防衛的なフレーミングを行いがちであることが、研究によって示されているからだ。
自己防衛的なフレーミングは、学習と改善のあらゆる機会を奪う。リーダーが学ぶ意思を示せば、さまざまな視点について生産的な会話が可能になる。このステップでは、「私は○○について知りたいと思っています」「○○について教えてください」といった言い方をするとよいだろう。
ステップ5:相手に内省や意見を求める
最後のステップでは、相手をフレームの中に招き入れ、関与させる。つまり、会話の参加者全員で現実を共有し、それに対処するのだ。これによって、見て見ぬふりをしてきた問題や停滞感の問題に、誰もが目を向けて取り組めるようになる。このステップでは、「どう思いますか」や「あなたはどのように見ていますか」とシンプルに尋ねるだけで十分だ。
では、ここまで紹介してきた5つのステップが実際にどのように展開するか、2つのシナリオで説明していこう。