【シナリオ2】
膠着状態から抜け出せないチーム
ある多国籍消費財企業の最高執行責任者(COO)であるタイは、みずから率いるチームが、最近寄せられた批判的なカスタマーレビューについて議論する会議に同席した。チームリーダーらはこの問題を、サプライチェーンの機能不全や人手不足、市場分析の不備のせいにしていた。生産的な対話というより、責任転嫁をしているように見えた。
このままでは何も解決せず、対立が激化し、チームメンバーの士気が低下することを懸念を抱いたタイは、この問題をフレーミングすることにした。
ステップ1:停滞の原因を自分の中で見極める
このチームは、批判的に考えるのではなく、責任のなすりつけをしている。
ステップ2:好奇心を持って状況を見つめる
もしかしたら、チームリーダーらは、仕事の負荷が増えたり、世間から批判されたり、他者の目から見て信用が落ちるといった、ネガティブな影響を恐れているのかもしれない。もしかしたら、ベンダーへの忠誠心から、波風を立てたくないメンバーがいるのかもしれない。もしかしたら、顧客の視点に立てないメンバーがいるのかもしれない。もしかしたら、何を改善すればよいのか、どこから手をつければよいのかわからないメンバーがいるのかもしれない。
ステップ3:気づいたことを判断せずに伝える
タイはチームに対して、次のように話す。「問題がどこにあるのか、それぞれの認識が違っていることに気づきました。そして、どの意見についても深く分析したり、話し合ったりしていないように見えます」
ステップ4:学ぶ意思を示す
タイは、次のように続ける。「軌道修正して、議論の方向を前向きに戻すには、私たちが直面している課題はいったい何なのか、本当のところを全員で理解したいと思っています」
ステップ5:相手に内省や意見を求める
そのうえでタイは、次のように尋ねる。「皆さんの視点は、すべて正当なものです。そこで、各自が5分間、問題の核心は何なのかを考え、それぞれの考えを発表して、グループで議論してはいかがでしょうか」
タイがこのフレームを設定すると、チームはいっせいに体系的かつ批評的な思考をするようになった。そして、チームメンバー全員がきちんと理解できるように、それぞれの課題点がまとめられた。
具体的な課題が共有できたことで、批判的なカスタマーレビューの流れを覆すために、解決すべき最重要課題は何かを特定し、議論する場となった。さらに、批判的なレビューを寄せた顧客に対するリカバリープランを検討するためのミーティングも、別途設けられた。
* * *
解決すべき問題があっても、対立や衝突が起きて不快な状態になることを理由に、何の手立ても講じなければ、「言及されない問題」は解決できずに行き詰まってしまう。そのような問題をフレーミングすることは、単純であると同時に難しい。手順が簡単に身につくという意味では単純だが、習慣づけられたことに逆らわなければならないという意味で難しいのだ。
私たちが何らかの障害に遭遇した時の典型的な反応は、それに抗って突き進むか、見て見ぬふりをして最も抵抗の少ない道を行くかのどちらかだ。いずれの場合も「問題とは何であるか」を適切に定義できない。
そして、私たちはたいていの場合、「こうなってほしい」という願望のフィルターを通して、暗黙のうちに障害となる物を定義する。バイアスや感情は、好奇心を妨げ、新しい情報を探したり、相手に助けを求めたりする能力を抑制してしまう。
新たなスキルの多くと同様、フレーミングは練習すれば簡単にできるようになるものだ。リーダーには、本稿で紹介したステップを繰り返し試すことで、仕事を本来の軌道に戻し、見て見ぬふりをしてきた問題がどれだけ大きなものであっても、果敢に取り組むための筋肉を身につけてほしい。
"How to Talk with Your Team About the Elephant in the Room," HBR.org, January 24, 2023.





