事情を理解してくれる同僚幹部および事業部リーダーと、関係を築く

 データに関してすでに十分な理解があり、データ主導の価値を提供するために、パートナーになってくれる事業部のリーダーや部署を見つけるのが、成功するCDOのやり方だ。データとアナリティクスとAIの取り組みは、技術面のみならず、プロセス、文化、スキル、顧客やサプライヤーとの関係においても変革を必要とする。これらは上級幹部の強い後押しがなければ成功しない。CDOは頼れる上級幹部との間に、信頼に基づく緊密な関係を築く必要がある。

先進的な企業に適した戦略

 ほかの価値提供のアプローチとして、企業のアナリティクス、AI、データマネジメント基盤の洗練度に依存するものがある。

高度に先進的な企業は、データガバナンスに注力できる

 筆者らの調査では、データガバナンスはCDOにとって最優先事項ではあるものの、そこから価値を創出するのは難しい。人々の行動変容が必要となり、データ使用者に対し、所定の仕事に含まれていないデータマネジメントの取り組みを求めることになる。効果的なデータガバナンスの難しさを踏まえれば、ほかの方法ですでに価値を確立しているCDOのみが、これを優先事項にするとよいだろう。

 一部のCDOは、「デザインによるガバナンス」の確立を目指している。データアーキテクチャー(管理モデル)と再利用可能なデータ資産を通じて、システムとデータ構造がデータの適切な使用を強制するという仕組みだ。ただし、この手法はまだ発展初期の段階にあり、高度に先進的なデータマネジメントが求められる。

短期間で価値を実証するのが難しくても、先進企業はデータドリブンの文化構築に取り組むべき

 CDOの大半(69%)が、データドリブンの文化を築く取り組みに多くの時間を費やしている。その理由は明白だ。事業目標を達成するうえで最大の課題は、データドリブンの文化の欠如であると考えるCDOは55%に上る。

 文化の取り組みで通常行われるのは、データリテラシーの研修と、データに基づく意思決定を組織全体に教え込む試みだ。しかし、取り組みの中で人々の行動変容も必要となり、その実現には時間がかかるかもしれない。したがってCDOは、ほかの方法による大きな価値創出をまだ達成していない場合、文化変革には慎重に臨むべきである。

組織が先進的な場合は、アナリティクスとデータのインフラストラクチャーを構築する

 アナリティクスとAIの能力が比較的高度な企業に所属するCDOの一部は、重要なプロジェクトを完遂するだけでは不十分であることを強調した。CDOは最終的に、会社全体でのデータとアナリティクスとAIの活用を加速させるための、インフラを構築する必要があると彼らは感じている。

 米国小売り大手クローガーの子会社のデータサイエンス企業、84.51°でデータとAIを統括するトッド・ジェームズは次のように述べた。「複数の戦略的なユースケースでは不十分です。それでは点のソリューションがいくつか生まれるだけです。再利用可能な一連のアナリティクス能力を持つことで、拡張を可能にしなければなりません。私たちは、APIでアクセスするコンポーザブルな(モジュラー型の構成要素でつくられた)一連のアナリティクスとAIのアプリケーションの開発に取り組んでいます」

 同様に、ある大手銀行で企業データと機械学習を統括するリーダーは、機械学習の拡張とインフラ開発に大きく注力している。彼はインタビューでこう述べた。「機械学習に関して、私たちは標準化と自動化の両方を通じて、誰もが活用できるプラットフォームを目指しています。根拠のない特異性を根絶し、一時的な機械学習プラットフォームから脱却したいのです」。同社はまた、フィーチャーストア(機械学習モデルのための再利用可能な変数が保存された場所)も構築している。

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 組織がCDOを必要としていること、そしていまこの職に就いている人たちが価値を生み出す限りこの職が定着し続けることは、まず間違いない。価値創出を実現している人もいる。この職の平均在任期間は短いかもしれないが、筆者らの調査におけるCDOの30%はすでに在任6年を超えている。

 CDOはデータとアナリティクスとAIで目に見える価値を生むために、本稿で挙げたアプローチや関連手法を採用すれば、自社をよりデジタルドリブンかつデータドリブンな競争をすることが可能な企業へと変革するための貢献ができるはずだ。

 ウォルマート、ハネウェル、ダン・アンド・ブラッドストリートでその役割を担ったベテランCDO、ビル・グローブスはこう述べた。「CDO部門はサービス組織ではなく、変革を担う組織である」


"8 Strategies for Chief Data Officers to Create - and Demonstrate - Value," HBR.org, January 31, 2023.