API連携で、既存の製品・サービスに金融機能を組み込む

――システム開発期間がちょうどコロナ禍とかぶっていましたが、支障はありませんでしたか。

宮本 新型コロナウイルス感染症の拡大前から、アクセンチュアとはリモート会議を中心に共同開発を進めていましたし、クラウド環境ゆえにお互いが離れた場所にいても大きな影響はありませんでした。

山根 コロナ前からすべてクラウド上で開発する計画で、環境を整備していました。アクセンチュアからはピーク時で約400人がプロジェクトに参加しましたが、国内では東京を含めて数カ所、海外では中国の大連・上海、フィリピンのマニラなど計8拠点に分散したメンバーが(アジャイル開発の)スクラムチームを組む体制を整えていましたので、変化にも柔軟に対応できたのだと思います。

山根圭輔KEISUKE YAMANE
アクセンチュア
テクノロジー コンサルティング本部 インテリジェントソフトウェアエンジニアリングサービスグループ共同日本統括

 すべてのサービスがスマートフォンで完結する次世代の銀行として、デジタルネイティブでゼロベースから設計された銀行サービスをつくるというミッションが明確だったことも、各拠点にいるメンバーを一つにまとめやすかった要因です。

――個人客向けの銀行サービスを提供開始したのとほぼ同じタイミングで、口座開設や預金、決済など各種銀行機能をクラウドサービスとして提供するBaaS事業もスタートしました。

永吉 もともと、みんなの銀行はBaaS専業くらいのつもりでいました。欧米ではBaaSを専業としている銀行がいくつかあり、FFGとして(福岡銀行、十八親和銀行、熊本銀行に続く)4つ目の銀行をつくるなら、まったく新しいビジネスモデルの銀行にすべきだと考えていたからです。

 ただ、プロジェクトが発足した2017年当時、BaaSという言葉や意味の認知がまだ日本では広がっていませんでした。具体的なサービスがまだ形になっていなかったので、BaaSを利用する顧客企業を開拓するのは難しかったですね。

 そこで、BaaSで提供する金融機能を実際に使うのは個人のお客様ですから、まずは個人のお客様に喜んでいただける使い勝手のいいサービスをつくり、お客様に受け入れられるんだということを自分たちで証明しようと考え、個人向け事業とBaaS事業の開発を同時並行で進めることにしました。

 最初からBaaSを前提にしていましたので、顧客企業が各種機能をAPI経由で利用できるマイクロサービスアーキテクチャーを採用したわけです。

 最近では国内でもBaaSに対する認知と関心が高まっています。何らかの製品やサービスを販売するうえで、金融サービスをシームレスに利用できればユーザーの体験価値が向上しますし、その結果、繰り返し利用いただけるようになり、生涯顧客価値が高まります。そのことを非金融事業者も理解し始めており、みずから金融サービスを手がける例も増えてきています。

森 健太郎KENTARO MORI
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ 銀行 プラクティス日本統括

 しかし、自社で金融サービスを始めるには相当な資本力が必要です。また、内部統制などのレギュレーション対応、インシデントが起きた時の顧客対応、セキュリティ対応も万全を期す必要があります。BaaSを活用すれば、そうしたハードルを乗り越えてすぐにでも、自社の製品・サービスに金融機能を組み込むことができますので、企業ニーズは非常に高いと思います。

山根 技術的な観点からつけ加えると、銀行システムの要となるのはデータベースですが、みんなの銀行はデータモデル(データの構造や形式など)もBaaSが前提となっているので、既存の銀行とはまったく違います。簡単に言えば、ただ耐障害性が高いだけでなく、可用性や拡張性、柔軟性が非常に高いものです。

宮本 当行のシステムは内側も外側もすべてAPIでつながっている、APIベースのシステムです。そして、APIについても顧客起点で設計しています。顧客企業と会話しながら、その企業が本当に必要としていて、使い勝手のいいAPIをつくると同時に、いろいろな企業が共通して使える機能については、それを見越してAPIを設計し、顧客企業が増えるにつれて開発量が増える構図を避けられるよう工夫しています。

 また、国内の銀行として初めて、世界トップレベルのセキュリティ規格「FAPI 1.0 Advanced」に準拠したAPI連携システムを開発・提供しており、非金融事業者の皆さんが安全に金融機能を取り込むことができます。