世界初のフルクラウド銀行システムの開発に「ワクワク」

 永吉さんたちはiBankでの成功体験を踏まえて、デジタルを前提にまったく新しい顧客体験を創造する銀行をゼロからつくるという大きな目標を設定していました。新事業を始めたり、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に着手したりする際に、日本企業ではスモールスタートで小さな成功体験を積み重ねながら進めるケースがあります。たしかに、リスクを最小化する点では正しいのですが、小さなことを繰り返すだけではビジネスとしてスケールしません。また、大きなビジョンがないとそれに共感、賛同してくれる人が集まらず、スケールしないケースが多く見られます。

 その点、永吉さんたちが、新銀行立ち上げという壮大な目標を設定したうえでみんなの銀行のプロジェクトをスタートした意義は非常に大きかったと思います。

山根 私はいろいろなDXプロジェクトに携わってきましたが、既存のビジネスやシステム、業務プロセス、あるいは商品・サービスに少しだけデジタルフレーバーを加えるといったケースが多いのが実情です。しかし、FFGさんの場合は、iBankの時から柴戸さんも永吉さんも、デジタルを経営課題のど真ん中に据え、既存の枠組みに囚われずに新しい価値や顧客体験を生み出そうという考え方をお持ちでした。

 テクノロジーサイドだけでなく、ビジネスサイドの人たちがそういう思考を持っているというのが大きなポイントで、その結果、組織も業務プロセスもシステムやサービスも、すべてがデジタルを中心とした日本初の銀行が生まれたのだと思います。

宮本 私はネット銀行で基幹システムの開発・運用に携わった後、2019年9月に入社しました。福岡銀行の基幹システムを高度化するプロジェクトをやるつもりで転職したのですが、銀行設立準備会社設立をプレスリリースした翌日、FFGから「銀行システムをフルクラウドで、スクラッチ(パッケージソフトなどを使わずオリジナルで)開発してほしい」と言われ驚きました。

宮本昌明MASAAKI MIYAMOTO
みんなの銀行
執行役員CIO

 当時、ネット銀行が部分的にクラウドを使い始めていましたが、本丸の勘定系をクラウドで構築することを決断した銀行は、世界を見渡してもどこにもありませんでした。「これはすごいプロジェクトだ」とワクワクしたのを覚えています。

――世界で初めて銀行システムをフルクラウドで、かつスクラッチ開発するというのは、非常に大きなチャレンジですよね。

永吉 私たちが目指している次世代の銀行をつくるには、「フルクラウドでシステムを構築するしかありません」とアクセンチュアから提案された時、大きな違和感はありませんでした。パブリッククラウドを提供しているテックジャイアント自身が、フルクラウドでビジネスを展開していて、大きな混乱を来していなかったので、私たちもできるんじゃないかという感覚があったのです。

 もう一つ、銀行がクラウドを使う時に必ず議論になるのは、既存のサービスやお客様のデータをいかに安全に、障害なくクラウドに移管するかということ。その点、私たちはゼロから銀行をつくるので、お客様もゼロからのスタートです。だからデータの移管などは気にする必要がなかったこともフルクラウドでの開発を決断できた理由です。

宮本 フルクラウドにしてよかったのは、やはり開発のスピードが非常に速いこと。私たちはマイクロサービスアーキテクチャーを採用したのですが、小さなサービスやプロダクトをAPIで連携させてシステムを構築していくので、モジュールをつなぎ合わせるだけで開発が進む感覚です。テストも簡単にできますし、すぐに仕様を変更して、アジャイル(俊敏)にブラッシュアップできます。

 ミドルウェアやコンテナなど、従来は銀行基幹系で使われていなかったクラウドネイティブな技術や製品が揃っていて、スピーディに開発できました。そのおかげで、銀行免許の取得が2020年12月、銀行システムの稼働が2021年1月、お客様へのサービス提供開始が同年5月という銀行業界の常識を覆すスピード感を実現できたのだと思います。