クリックやコンバージョンのための顧客体験を構築していないか
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サマリー:カスタマージャーニーの最適化により、ブランドは顧客の期待に応えようとする。しかし、その動機はクリックやコンバージョンではなく、顧客の長期的な満足、ロイヤルティ、リテンションの促進でなければならない。本... もっと見る稿では、顧客が切望していることを起点に、どのようなことに考慮してカスタマージャーニーを構築すべきかを解説する。 閉じる

カスタマージャーニー最適化の動機は何か

 この数年にわたり、顧客と市場は途方もなく大きな変化を経験した。サプライチェーンの不全や、顧客のチャネル嗜好の変化などを受け、組織は変わりゆく顧客のニーズと期待に遅れずついていくのに苦労してきた。

 またこれらの混乱によって、あらゆる種類の組織が、デジタル技術を用いて新たな方法でターゲット顧客を惹きつける必要に迫られた。オンラインでの車の購入からセルフサービスの活用まで、顧客体験(CX:customer experience)にデジタルが根づいていった。

 だが、テクノロジーは全体像の一部にすぎない。

 筆者らの発見によれば、最も説得力のあるデジタル体験の創出は、顧客への深い理解から始まる。つまり、顧客は誰なのか、何を求めているのか、彼らの「片づけるべき用事」は何か、さらには自身についてどう感じているのか、である。

 残念なことに、多くの組織は逆の考え方をしている。まずテクノロジーから入り、その後に顧客理解へと戻るのだ。業務効率の向上を図る果てしない努力の中で、顧客への共感よりも自動化が優先されているが、これは問題だ。顧客への深い理解がなければ、説得力のあるデジタル体験は生まれない。

 ビジネスリーダーらは、自分たちが必ずしも顧客への理解に長けていないことを認めている。一例として「ガートナーCMO支出調査」の最新版では、マーケティングリーダーらは自社に最も足りないケイパビリティとして、顧客理解と顧客体験マネジメントを挙げている。

 この問題は解決できるのだろうか。

 説得力のあるデジタル体験の創出は、顧客が本来達成しようとしている目的を、自社がどのように支援すべきかを知ることから始まる。きらびやかな最新テクノロジーや自動化よりも重要なのは、顧客への理解に基づいて、顧客単独では成しえないような方法で、思い通りにコントロールする感覚や自信を得られる体験を構築することだ。

 ブランドは、カスタマージャーニーの最適化によって顧客の期待に応えようと努力する。だがその取り組みの動機が、顧客の長期的な満足、ロイヤルティとリテンションの促進ではなく、クリックとコンバージョンを促すことであれば、望ましい結果は生まれない。

 成果を上げる方法を以下に紹介する。

顧客が切望していることを起点にする

 大半の企業は、顧客にとって説得力のあるデジタル体験とは実際に何を意味するのか、十分に理解していない。これは、ほとんどの体験の質が低いという意味ではない。デジタル体験がコモディティ化して平凡なものとなっているのだ。

 実際にガートナーの調査では、ブランドとのデジタルインタラクションが何らかの行動変容につながったという顧客は、わずか14%に留まっている。

 違いが生まれるのは、ブランドが単純に自社の製品・サービスのみに対する顧客の認知を高めるのではなく、顧客の自己認識の向上をどう後押しできるかに焦点を当て、自社のアプローチを見直す時である。

 顧客は、自分についてさらに深く理解したいと切望している。そうすることで、自分の目的や目標を達成しやすくなるからだ。

 ほとんどの企業は「自社は顧客にどう思われているのか」に注力する一方、「顧客は自分自身についてどう考えているのか」を重視せず、改善する機会を見過ごしている。顧客の自己認識がポジティブな方向に変わるよう後押しをするために、組織は以下の3つのアプローチを用いることができる。

すべてのデジタル体験が、摩擦をなくすべきものとは限らない

 顧客の目標によっては、自分の選択について熟考できるよう学習経路を提供するという形で摩擦を生むことが、よりよい体験となりうる。ここでの学習経路とは、顧客に目標達成の方法に関する理解を深めてもらうための、ブランドとの一連のインタラクションを意味する。

 ガートナーの調査では、B2BとB2Cの顧客は「自身のニーズや目標について、新しい気づきを得た」場合には、購入の可能性が1.73倍高まることが示されている。

量よりも価値を優先して考える

 触媒的、つまり顧客の変化を加速させるようなブランド体験は、感情に響く特別なものであり、顧客の生活に影響を及ぼす。その体験は何らかの形で顧客に変化をもたらし、自己をどう認識するか、および特定の行動を続けるかどうかを判断する材料となる。

 このような体験は、ブランドの独自性、親しみやすさ、真正性などを促進する従来のアプローチに比べると、ブランドコミットメントに及ぼす効果は約2倍に上る。

デジタル購入体験の枠を超えて考える

 顧客がすでに所有している自社の製品やサービスの価値を、どのように最大化できるかを示すとよい。ガートナーの調査では、こうした価値向上の方法を提示される顧客は、定着しやすいだけでなくさらに購入する可能性が高い。

 ブルックス(ランニングシューズのメーカー)のシューズファインダーを例に考えてみよう。このウェブサイトにおける診断では、顧客はフィットネスの目標について検討するための重要な質問を提示され、さらには自分の走り方(足の位置や膝関節への相対圧力など)を積極的に振り返ることができる。

 これらの質問が特徴的なのは、製品に関して尋ねるだけでなく、ランニング目標の達成に向けて自信が持てるよう顧客を支援するという点だ。顧客はこれらの質問を検討しなければ実現できなかった新たな方法で、より多くの情報に基づいて靴選びができるはずだ。

 重要な留意点として、これらのアプローチは自社の顧客のペルソナに関する理解に根差していなければ、どれほど素晴らしいテクノロジーを使っても効果はない。誤解しないでほしいのだが、筆者らもテクノロジーは非常に大事だと考えている。だが、それ以上に顧客への理解を大事にしているため、説得力のあるCXに不可欠な要素の一つとしている。