
コロナ禍で悪化する「お客様」の無礼
「お客様」による無礼な振る舞いが後を絶ちません。飲食店への悪質なクレームや乗務員への暴言など、現場の最前線で働く従業員は日々、顧客の無礼な行為や態度に悩まされています。
国内でも「カスタマーハラスメント」という言葉が広がりを見せているように、コロナ禍を経て、事態の悪化に拍車がかかっています。特集「『お客様』から社員を守る」では、顧客の無礼(Incivility)に着目し、その解決策を考察します。
ベストセラー『Think CIVILITY 礼儀正しさこそ最強の生存戦略である』(東洋経済新報社、2019年)の著者クリスティーン・ポラスがまとめた2022年の調査では、回答者の73%が「顧客が無作法な態度を取ることは珍しくない」と答えています。これは10年前より12ポイントも上昇しました。
ポラスは「顧客の無礼な振る舞いから最前線で働く従業員を守る方法」において、この問題を放置すると企業全体にもしわ寄せが及ぶと指摘します。リクルーティング、コーチング、業績評価、実践の4ステップを踏むことで、顧客の無礼な振る舞いに対処できるようになるといいます。
特に、常に笑顔が求められるサービス業従事者への影響は看過できません。「感情労働の負担をどうすれば軽減できるのか」では、心理学者のアリシア A. グランディが顧客に共感しつつも感情に引きずられないようにする方法や、つくり笑いの感覚を解消するためのテクニックを紹介します。
ほかにも、論文「職場での物言いに傷ついた時の対処法」では、悪意のある感情が向けられた際、まず自分自身の感情に目を向けることの重要性を説きます。筆者は、顧客だけでなく職場の同僚から無礼な物言いをされた時の優れた対処法を伝授します。
さらに「お客様は常に正しい」という前提に疑問を投げかける「顧客も従業員のように管理できる」という論考もあります。顧客の行動はコントロールできません。ですが、顧客に適切な振る舞いを促すべく、従業員のように訓練や評価をうまく行い、その行動を制御するのです。
このように無礼な「お客様」を放置せずに、きちんと対処することが従業員を守り、ひいては組織を守ることにつながります。これは、人事やカスタマーサポートの役割というよりもトップの仕事です。
オーセンティック・リーダーシップの提唱者であるビル・ジョージは、トップこそ顧客あるいは職場の無礼な態度や行為から目を背けてはならないと指摘します。「経営者こそ、最前線の従業員と積極的に関わるべきだ」と述べ、現場とのコミュニケーションに時間を費やすことの意義を語ります。
最前線の現場で何が起きているのか。リーダーは、今号を機に、もう一度現場に出てみるとよいかもしれません。
(編集長 小島健志)