なぜビジネスリーダーは反ESGの動きに抵抗すべきなのか
French Anderson Ltd/Stocksy
サマリー:米国のトップ企業の7割が保守派の共和党支持を標榜している。一方で企業は、進歩的な取り組みを進めているため、共和党のメンバーなどから非難されるという奇妙な立場に立たされている。本稿では、こうした中で企業... もっと見るはどのように振る舞えばよいかを論じる。環境や社会問題に関する議論のテーマは多岐にわたるが、その中でもLGBTQ+、中絶、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)、ESG投資についての事例を用いて解説する。 閉じる

「意識が高い」と揶揄される共和党支持の企業

 米国では文化戦争(価値観の対立による社会政治的分断や衝突)が激化しており、その影響は企業にも及んでいる。中絶、同性愛者やトランスジェンダーの権利、人種や男女の平等、気候変動など、感情を揺さぶる問題に企業が引きずり込まれつつある。

 特に、社会的な問題に対する姿勢については、主に右派の政治家から疑問を投げかけられている。つまり、米国のトップ企業の70%が保守派の共和党支持を標榜しながら、支持政党の著名なメンバーや識者から、「ウォーク」(Woke:環境や社会問題に対する意識の高さを揶揄する言葉)と見なされ、「ESG」(環境、社会、ガバナンス)などの進歩的な政策に荷担していると非難される、という奇妙な立場に立たされているのである。

 そうした非難の矛先が向かないようにすればよい、と考える向きもあろう。だが、そう考えたところで、今日の大きな問題に対して、立場を示さないでいることは不可能だ。主要なステークホルダー、特に若い顧客や従業員がそれを望んでいるからである。

 そのため、「ウォークネス」(woke-ness)への非難に備えて対策を練ることは、企業リーダーの最重要課題となっている。そこで、いま何が起こっているのかを整理しておこう。まず、各社が直面している最も顕著な事例を紹介する。その後、今日の政治的な攻撃に備えて、リーダーが今後考えるべきことについて要点を述べたい。

反ESG運動とは何を指しているのか

 まず、用語の解説と、右派がさまざまな問題をひとくくりにしてきた背景について説明する。ESGは、主に金融の世界で使われる言葉であり、環境や社会の問題によって生じる企業や投資のリスク(および機会)を測定しようとする試みである。「G」の部分は、企業がいかにこれらの問題をうまく管理しているかを示している。

 「サステナビリティ」は、社会における企業の役割や、企業があらゆる環境、社会問題にどのような影響を与え、また受けているかに注目した、より広範な考え方である。「反ESG」という呼び方は、投資家を攻撃すること(詳しくは後述する)が最終的な狙いであるように聞こえる。だが、これはより大きな「反ウォーク」や「反サステナビリティの取り組み」のほんの一部にすぎない。ファンド大手モーニングスターの幹部がいみじくもある記事に書いているように、「反ESG(は)市民社会における『リベラルな価値観』の広まりに対する反意のすり替えである」

 環境や社会の持続可能性に対する全般的な反対は、企業にはどのように関係してくるのだろうか。例をいくつか挙げよう。

LGBTQ+の権利

 政府が社会問題をめぐって企業を追及した最も顕著な例は、おそらく「フロリダ州知事と州議会の共和党勢」による「同州最大の雇用主ウォルト・ディズニー・カンパニー」への攻撃だろう。2022年、地球上で一番幸せな場所の当時のCEOは、フロリダ州のいわゆる「ゲイと言ってはいけない」法案(小学校でLGBTQ+について会話や議論をすることを禁じる)に対して反対を表明した。ディズニーの言葉を借りれば「ゲイ、レズビアン、ノンバイナリー、トランスジェンダーの子どもや家族を不当に標的にする」というのが反対の理由だ。この表明は、従業員からの強い圧力や怒りの声を受けて行われたものである。

 企業がLGBTQ+の権利を支持することは、いまに始まったことではなく、特にホスピタリティ業界では、ゲイコミュニティへのマーケティングや、ゲイコミュニティからの雇用が有益であると、長い間考えられてきた。しかし、この法案を支える、ふだんは反「大きな政府」の立場を取る議員や知事がディズニーを攻撃し、長年の経済的な優遇措置やフロリダ中心部における自治権を剥奪した。

 戦いは激しさを増している。ディズニーは、事業運営に対して政府の影響力を弱めるための係争で一定の成功を収めた。現CEOのボブ・アイガーは、フロリダ州の報復措置は「反ビジネス的」どころか「反フロリダ的」であると株主に語った