中絶
人工妊娠中絶を認める権利を覆した米連邦最高裁のドブス判決を受け、企業は新たな厳しい選択に迫られている。多くの企業が、中絶を禁止している州の従業員のために、リプロダクティブケア(生殖医療)を受けるための他州への移動交通費を負担するとしている。また、医療と直接関係のある企業、特に薬局大手やドラッグストアチェーンは、合法的な経口中絶薬を販売するかどうかというプレッシャーに直面している。
多様性、公平性、包摂(DEI)
近年、最高ダイバーシティ責任者の設置が劇的に増加し、役員報酬の算定に、多様性指標における企業のパフォーマンスを取り入れることが一般的になっている。また、2020年に起きたジョージ・フロイド殺害事件後、米国の大手企業は、構造的な人種差別の問題解決に取り組むために500億ドル以上の出資を約束している(約束を果たし、成果が出たかについては議論の余地がある)。
企業は、一般的に、自社のDEIの取り組みを誇りに思い、コミットし続けている。たとえば、投資会社アリエル・インベストメンツの新しい取り組みである「プロジェクト・ブラック」は、ウォルマート、JPモルガン・チェース、ホームセンターチェーンのロウズなどの大手と連携して、多様性のあるサプライチェーンの構築に取り組んでいる。
しかし、反ESGの人々は、愚にもつかないことを言って、折りあるごとにDEIを攻撃する。シリコンバレー銀行の破綻直後、フロリダ州知事や極右の評論家は、破綻の原因を「ウォークネス」や「多様性」に帰して非難した。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙の衝撃的な論説は、同銀行の取締役会における代表権のわずかな改善に触れ、「白人男性12人であればこの混乱は避けられたとは言わないが、銀行は多様性に対する要求に注意を奪われていたのではないか」とのたまった。このような発言は根拠がない──多様性が破綻に関係した証拠は皆無である──だけでなく、愚かで人種差別的である。
ESG投資
環境問題や社会問題で投資先を選別するという考え方は、何十年も前からあった。しかし近年、気候変動のような世界的な難題が経済やビジネスのリスクとなり、それを理解し、意思決定に含めるべきだと明確に判断した機関投資家が一定規模以上現れたのである。彼らはESG関連リスクに基づいて企業を選別し、大量のファンドを新設して数千億ドルの資金を引き寄せ、2022年には、ESGファンドの運用資産額は100兆ドル以上に達した。
ESGファンドの定義を明確にすることは難しく、この分野はまだ発展途上であるが、新型コロナやテック株の暴落といった不確実性がある中でも、ESGは堅調に推移している(ESGファンドの投資先は、一般的にテック企業が多く、石油やガスのセクターは少ない)。米国でファンド全体の解約額が3000億ドル以上に上ったが、ESGファンドは基本的に横這いで推移した市場全体で資金引き揚げが見られる中で、
投資家が不確実性や曖昧さに直面しながらも前進してきた理由を簡単に説明すると、第1に、気候変動のようなビジネスリスクを引き起こす環境、社会的要因が現実に存在すること、第2に、顧客がESGやインパクト投資のオプションを要求していることである。
しかし、一部の州政府首脳はそれを受け入れていない。いくつかの州は、「反ウォーク運動」の一環と称して、世界最大の資産運用額を誇るブラックロックのような著名なESG支持者から資金を引き揚げた。これは、モーニングスターが語った「リベラルな価値観」に対する大きな戦いの一部であり、また、最も簡単に講じられる手段でもある。反LGBTQ法案を成立させるよりも、公的年金運用から資金を引き揚げるほうが手っ取り早いのである。