
M&Aに必要なアドバイザーの存在
M&A(企業の合併・買収)を推進する企業は、毎年400億ドルもの資金を外部アドバイザーに費やしている。投資銀行や弁護士などの専門家は、買収者または被買収者に特定の分野の専門知識を提供したり、取締役会と独立した「セカンドオピニオン」を提供したり、取引を成立させるためのその他のサービスを提供したりするために雇われる。
しかし、アドバイザーのこうした役割は実際のところ、M&Aに付加価値を与えるものなのだろうか。
米国における1万件に上る企業買収事例に対する市場の反応を分析したところ、たしかに1社のアドバイザーの関与を発表した企業は、何も発表しなかった企業よりも平均的に優れていた。しかし、アドバイザーが2社いる企業は、いない企業よりも業績が悪く、さらにアドバイザーが1社増えるごとに株式市場の反応はさらに悪くなることが判明した。では、この意外な効果は何によってもたらされたのだろうか。
日本の企業が関与する一連の大型M&Aを議論するに当たり、最近の代表的な2つの事例をもとに、複数アドバイザーの関与の実態を見てみたい。
ソフトバンクのARMホールディングス買収
日本の多国籍コングロマリットであるソフトバンクグループは、2016年に英国を拠点とする半導体およびソフトウェア設計会社であるARMホールディングスを310億ドルで買収した。ブルームバーグの記事によれば、ソフトバンク側はレイン・グループやロビー・ウォーショー、みずほフィナンシャルグループなどを、ARM側はゴールドマン・サックス・グループやラザードなどの複数のアドバイザーを起用した。
この買収は、当時、欧州のテクノロジー企業の買収としては最大規模のものであった。買収は成功し、ARMホールディングスはソフトバンクのビジョン・ファンドの重要な一翼を担うことになった。ARMホールディングスの技術が、ソフトバンクの長期ビジョンと成長戦略に合致していたためと考えられている。
レイン・グループは、ハイテクやメディア、情報通信の案件に特化するアドバイザリー・ファームであり、ソフトバンクによるスプリントの経営権取得にも携わった(ソフトバンクの孫正義会長兼社長はレインの顧問委員会のメンバーの一人である)。
ロビー・ウォーショーは、英国企業のアドバイザーを務めることの多いファームであり、英国市場に関する専門知識を提供したものと見られる。これらアドバイザーの支援もあり、このディールは成功したが、複数のアドバイザーを雇うことで、問題となる可能性があった。
たとえば、複数のアドバイザーを雇うことで、相反するアドバイスや提案がなされ、ソフトバンクの経営陣が混乱する可能性があった。また、複数のアドバイザーがいることで、より多くの人と機密情報を共有することになり、情報漏えいのリスクが高まる可能性もあった。