技術評価の観点
科学技術が先鋭化と複雑化の一途をたどる昨今では、技術評価(テクノロジーアセスメント)の精度が、企業の価値評価、投資リスク管理、戦略的な意思決定の支援において極めて重要となる。
価値評価のためには、技術の成熟度、市場への適用可能性、競争優位性、知的財産の保護の方法などを考慮に入れなければならない。同時に、技術的な不確定要素などのリスクを早期に特定し、適切に管理しなければならない。
これらの課題に対処するためには、まず技術の価値やリスクを評価する手法やプロセスを確立する必要があるが、これは一般的な企業評価とは異なる専門的な知識や手法を必要とする。
M&Aアドバイザーは、対象とする産業セクターにおける技術的な専門知識を蓄積し、評価手法を磨いていくことになるだろう。そのためには、自社内のスキルアップだけでなく、おのおのの分野で切磋琢磨している大学・公的研究機関と研究者との連携は有用な機会となりうる。
とりわけ、AIとデータ解析技術の進化は、大きな可能性を秘める。これらの技術を利活用することで、高精度かつ効率的なテクノロジーアセスメントが可能となるに違いない。一方で、技術を適切に価値に結びつけるための、倫理的・法的・社会的課題(ethical, legal, societal issues, ELSI)や、責任ある研究・イノベーション(responsible research and innovation, RRI)の観点からの評価も不可欠である。
M&Aアドバイザーの起用に当たっては、国際的な共通認識を踏まえたうえで、地域の固有な事情への対処も求められる。M&Aにおいて、複数のアドバイザーを活用する際の成功のカギは、言わば専門家集団という「群狼」を効果的に従わせることであり、以下の戦略を実行することである。
・チームワークを絶対条件とする。
・各アドバイザーの責任を明確に定義する。
・シニアリーダーを当初より巻き込む。
・コラボレーションを促進するためのインセンティブを調整する。
・成功と失敗の両方から学んだ教訓を受け入れる。
・アドバイザーとの強固な信頼関係を築くことに投資する。
・効率的にコミュニケーションと調整を促進するテクノロジーの重要な役割を認識する。
ここで、真に信頼できる有能なM&Aプロフェッショナルとの関係構築こそが、効果的なレシピをつくるための中心的な要素となる。このような信頼に足るアドバイザーが、ディールに固有の状況により他のアドバイザーを雇うべきだというのであればそれを受け入れ、市場や技術の評価のために必要とすれば適切なアドバイザーを雇えばよい。
結局のところ、アドバイザーは企業ではなく、人なのである。
謝辞:本稿の執筆に当たっては、インテグラル取締役パートナーの佐山展生氏にご助言をいただいた。ここに感謝の意を表する。
本稿は“Research: How Many M&A Advisors Do You Really Need?” HBR.org, December 15, 2022. をもとに、日本版のために特別に加筆・修正して再編集した。