しかし、本当に問われるべきなのは、大勢の社員を変革のプロセスに関わらせるのが妥当か否かではない。重要なのは、社員たちをどのように関わらせればよいのか、そして、そのプロセスで上級幹部がどのような役割を担うべきなのかという点だ。
本稿で紹介してきた事例の場合、それらの会社の上級幹部たちは、変革の方向性を形づくり、変革の計画を立てるプロセスの初期段階に、多くの社員たちを参加させていた。それはたいてい、厳しい判断が求められる時期だ。しかし、その種の決定は、関わる人が増えれば増えるほど、結論に達することが難しくなる。一人ひとりが異なる意見を持っていて、変革によって受ける影響も異なるからだ。どんなに立派な肩書を持っていようと、人は誰でも、変革が自分と自分のチームにとって好影響と悪影響のどちらをもたらすかという視点で判断せずにはいられないのだ。
これは、社員にどのような期待を持たせるかに関わる問題でもある。
早い段階で多くの意見や視点を得ることの価値は極めて大きい。充実した議論が行われるようになり、新しい可能性が開けてくる。しかし、意見を述べることと意思決定を行うことの違いは明確にすべきだ。社員のエンゲージメントに重きを置く文化を持っている中規模企業は、この点で難しい状況に直面する場合がある。
大勢の社員に意見を述べさせ、データを提供させ、議論に参加させることと、全員を意思決定に参加させることは、同じではない。意思決定は、もっと少人数のチームで行うべきだ。具体的には、多くの場合、CEOと幹部チームがその役割を担うことになるだろう。そして、決定が下された後は、より多くの人たちがその決定を最も効率よく実行する方法を模索すればよい。
しかし、その後の実行段階でも、幹部の誰か、もしくは幹部チームが指揮を執る必要はなくならない。その段階でもさまざまな小さな選択を求められる機会があり、そうした選択は幹部たちが行うべきなのだ。ここでどのような選択をするかによって個人が受ける影響は人によってまちまちで、一人ひとりが異なる利害を持つためだ。
実際、本稿で取り上げた事例ではいずれも、実行段階で幹部たちの判断が必要とされた。抽象論のレベルで何を目指すべきかは、誰もがわかっていた。しかし、それを具体的にどのようにして実現すればよいかを判断するためには、既存の活動のどれを打ち切るか、そしてどのような比較衡量を行うかについて、多くの判断が求められたのだ。
大きな変革を起こそうとする時に、頭に入れておくべき原則
あなたが中規模企業で大きな変革を起こそうと考えていて、組織内に社員のエンゲージメントを重んじる文化が広く普及してい
社員に参加を求める際は、意見や情報をもたらすことを期待しているのか、それとも意思決定に加わることを期待しているのかをはっきりさせる。
意思決定を目指す場合は、担当の幹部なり最高幹部の誰かが最終的な決定権を持つことをあらかじめ明確に示すべきだ。特に、大勢のメンバーによって構成したチームがコンセンサスに到達できない場合は、上層部の判断により意思決定を行うことを明示しておいたほうがよい。
本稿で紹介したテクノロジー企業でも、最終的にそのような形になった。ソフトウェアの法人向けの売上げを増やそうとしていた会社のケースだ。多くの社員を参加させるアプローチによって、大きな変化を起こせなかったことを受けて、同社のCEOはほかの数人の上級幹部およびスタッフと話し合い、社内の主要な部門ごとの優先課題を明らかにし、それぞれの課題に沿ったゴールを設定した。また、小規模な合理化を行い、最も必要性の高い部門にリソースが振り向けられるようにした。
この変革に誰もが満足したわけではなかったが、社員たちはそれを必要なものとして受け入れた。もっと早い段階でそのような決定をすべきだったと述べた人たちもいたくらいだ。
リーダーやスポンサーが変革のプロセスに深く関わり続けるようにする。
これは、ある国での事業閉鎖を検討していた前述の企業で実行されたことだ。筆者は、特別チームが袋小路にはまり込んでいると聞いた数週間後に、その会社が特別チームを解散したことを聞かされた。その後、同社では、事業閉鎖の期日を決定して顧客に通知し、システムを遮断した。これですべておしまい。それ以上の議論はしなかった。
なぜそのような判断に至ったのかと、筆者は尋ねた。すると、このような返答が戻ってきた。上級幹部の一人が特別チームのメンバーに話を聞いたところ、それまでの方針ではメンバーが膨大な時間を費やさなくてはならず、事業閉鎖の時期が遅れ、監督官庁の怒りを買い、おそらくは、削減されるコスト以上の出費を伴うことがわかったというのだ。そこで、2週間以内に閉鎖の期日を決定して、その決定を実行するよう指示したという。この方針が社内で周知されると、後はすべてすんなりと進んだ。
変革のプロセスに大勢の人を関わらせることは、変革のマネジメントにおいて極めて重要な要素だ。視野を広げ、幅広いソリューションによる選択肢を生み出し、新しいやり方を実践する役割を求められた人たちの、コミットメントを高める効果が期待できる。
しかし、大勢の多様なステークホルダーたちに対して、個人レベルや部署レベルの優先事項を脇に置いて、より大きな目標のために行動するよう促すのは、あまり現実的とはいえないのかもしれない。企業の上級幹部は、社員のグループが自発的に厳しい判断を下すことを期待しないほうがよい。その種の決断をすべきなのは、あくまでも上層部だ。それも、最初の段階だけでなく、変革のプロセス全体を通して上層部が決断を下すことを忘れてはならない。
"Leading a Midsize Business Through Change," HBR.org, April 27, 2023.