2. ターゲットオーディエンスはCEOではない
最高経営幹部の一員なら、取締役会でのプレゼンを依頼されるまでに、CEOを交えたディスカッションの司会をした経験がたくさんあるはずだ。ほとんど準備をしていなくても、非公式な形でCEOに最新情報を報告することにも慣れているかもしれない。だが、それと同じ心構えや習慣を取締役会に持ち込むのは大間違いだ。
「取締役会に出席した事業部門のリーダーが、取締役ではなく、自分の上司に向けて話をすることが実に多いことに、いつも驚かされます」と語るのは、20年以上にわたり、上場、未上場企業の社外取締役を務めてきたスコット・ミラーだ。問題はプレゼンテーションのスタイルではなく、経営幹部が取締役のニーズをほとんど考えていないことにあるという。
取締役会は、日頃関わるグループとは異なるユニークなオーディエンスだ。彼らは営業をかける顧客とは違うし、事業戦略に関する認識が一致していて、事業の詳細も熟知する経営幹部仲間でもない。
上場企業の取締役会は、別の企業の経営幹部や学者や元CEO、現職の財務責任者、そしてまったく異なる業界の知見をもたらしてくれる経営幹部などにより構成される。したがって、その会社や特定のトピックに関する知識レベルには大きなばらつきがある。
10年以上取締役を務めている人もいれば、まだ3~4回しか取締役会に出席したことがない人もいる。取締役の間に暗黙の(まったく知りえない場合もある)序列や派閥が存在し、権限も一様ではない。
ウーバーの取締役会議長で、アップルやシェブロン、アムジェンの社外取締役も務めるロン・シュガーは、取締役会でプレゼンをする時に重要なのは、「適切な高度を飛ぶこと」だと語る。「あまりに嚙み砕いて説明すると、取締役を侮辱することになります。ですが、ワーキンググループになりたい取締役会は存在しません。彼らは、自分たちのレーダーにどのような問題が映し出されるべきか、理解したがっているのです」。そこでシュガーは、プレゼン担当者が持ち時間の半分でプレゼンを済ませて、要点を素早く示してディスカッションをできるようにすることを提案する。
シュガーのアドバイスは健全なものだ。取締役会でのプレゼンで重要なのは、経営環境を素早く再認した上で、是正すべき最大の問題を示すことだ。
CEOは、こうした問題をよく知っている。CEOが取締役会のプレゼンを見て驚くようであってはいけない。しかし取締役は、経営幹部のそれぞれの担当(人事、業務、規制、特定の地域など)における中核的な問題と、迫り来る課題を、教えてもらう必要がある。それなのに、問題を正しく位置づけるチャンスを逃している(そしてプレゼンの魅力を著しく低下させている)経営幹部があまりにも多い。
課題を提示する目的は、取締役会を怖がらせることではなく、取締役会を啓発し、プレゼン担当者を悩ませている業務上、戦略上の問題に関与させることだ。
3. 貴重なフィードバックを得るためのプレゼンの舵取り
EYの取締役会を支援する組織「センター・フォー・ボード・マターズ」が2022年に実施した調査によると、上場企業の取締役は、資本配分や経営者の後継者選びに関する議論に、自分が価値を与えていることに自信を持っている。ところが、収益拡大やイノベーションや創造的破壊といった領域では、自分が大きな価値をもたらしていると感じている取締役はほとんどいなかった。だが、こうしたトピックこそが、経営幹部が取締役会に招かれた時、最も頻繁に取り上げるトピックだ。
有能なリーダーは、取締役からリアクションやインプットを引き出すディスカッションを設定することで、みずからが取締役会から得る価値のバランスを取ることができる。それなのに、唐突に終了して、「質問はありますか」という言葉で締めくくられるプレゼンがあまりにも多い。
プレゼンの後、しつこい取締役からの予期せぬ(たいてい無関係な)質問をきっかけに、重箱の隅をつつくような話に終始してしまったとこぼす経営幹部は多い。ほとんどの場合、その責任は完全にプレゼン担当者にある。彼らが適切なディスカッションを設定できず、取締役会から貴重なフィードバックを得るための舵取りをするチャンスを逃してしまったのだ。
元ラレード・ペトロリアムCEOのランディ・ファウチは、大小さまざまな企業の社外取締役を務めてきた経験から、多くの経営幹部が「関連する経験を持つ取締役から意見を求める機会を逃している」と考えている。多くは取締役に質問を投げかけることを恐れ、取締役に発言の機会を与えずに終わっているというのだ。
高度なディスカッションを促す「よい質問」を投げかけることは、しっかりしたプレゼンに求められる暗黙の必須事項である。自信がある経営幹部なら、プレゼンの締めくくりに主な業績を繰り返すのではなく、将来の成功の原動力となりうる2~3の重要なアイデアを示して、取締役のインプットを求めるはずだ。未解決の疑問や、今後も続くビジネスリスクを示して、取締役会の見解を真摯に求めなければならない。
目標は、自分が提案した行動方針について、取締役会の妥当性確認や批評を求めることだ。そうすれば必ず、率直なフィードバックや、知的で鋭い質問が与えられるなど、取締役会の有意義な関与が得られる。
元ホーム・デポCEOのフランク・ブレークは、あるインタビューで、店舗チームとその店の視察に立ち寄ったCEOとの典型的なやり取りについて、こう語っている。「CEOが必ず耳にするのは、次のような言葉です。『あなたは素晴らしい仕事をしていますね。我々もうまくやっています。さあ、お帰りください』」
こうした表面的な礼儀正しさ(そして非生産的なフィードバック)が、取締役会における経営幹部のプレゼンでも一般的になっている。それは取締役会での議論のレベルを高め、経営幹部と取締役が最大の知的価値とインサイトを引き出すチャンスを台無しにしてしまうのだ。
"3 Ways to Nail Your Presentation to the Board," HBR.org, June 29, 2023.