ムンバイ、デリー、バンガロールなど人口が1000万人を超える「スーパーメトロ」は、別の意味で成長に貢献している。これらの都市では超富裕層の人口が毎年10%近く増えており、彼らは高級車や高級住宅を購入し、国際的な人気エリアで休暇を過ごす。こうした都市の成長を、あらゆる多国籍企業が見逃すわけにはいかない。

 インドの数字をほかの国々と比較するとわかりやすいだろう。ブルッキングス研究所の2017年の報告書によると、2015年から2022年にかけて世界で10億600万人が中間層になると予測されていた。そのうちインドは推定3億8000万人で全体の約3分の1を占め、中国の3億5000万人を上回る。この半分にさえ届く国はほかにない。興味深いことに、2030年における米国の中間層の消費総額は購買力平価ベース(2011年、米ドル)で4兆7000億ドルと予測されており、これは2015年とほぼ同じである。

 世界で中間層の消費が最も驚異的に成長すると見られるのはインドで、2015年の2兆1000億ドル(米国の半分以下)から、2030年には10兆7000億ドル(米国の2倍以上)になると予測されている。中間層が世界最大になるのは中国で、14兆3000億ドルの消費を生むだろう。もうひとつの成長の中心地はインドネシアで、中国、インド、米国に続いて4番目に大きい中間層の消費の核になるだろう。ただし、その規模は2兆4000億ドルで、インドの4分の1程度だ。

 これらのデータは、各国の総合的な成長率のデータとも一致する。ゴールドマン・サックスが算出した2010~2019年のインドの実質GDPの成長率は6.9%で、世界の主要経済の中で2番目に速く、先進国の3倍を超えるペースだった。2020~2029年のインドの成長率は世界で最も高くなると予想され、中国、フィリピン、トルコ、エジプトがこれに続く。先進国の成長率はどこも、インドの半分にさえ届かないだろう。

 インドの実質GDPは2050年までに、数値でEUの域内GDPを超える見込みだ。購買力平価で調整すると、インドのGDPはEUの優に3倍に達するだろう。2075年には、世界の経済トップ3は中国、インド、アメリカの順になる。4位以下は大きく引き離され、インドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプトがトップ10に入る可能性はあるが、いずれも上位3カ国の3分の1以下の規模だろう。

多国籍企業への教訓

 インド全体の成長と中間層の増加に関するデータを考慮すると、多国籍企業のインド子会社が自国の成長機会ゆえに高く評価されるのも不思議ではない。すべての多国籍企業にいま、急成長する都市部の中間層から利益を得るためのインド市場戦略が必要だ。次の3つの助言に従うことが成功につながるだろう。

・インドへ大規模な資源を投入する。製品設計、製造、マーケティング能力をローカライズする。

・文化、価値観、規範、利用習慣、酷暑とエアコンの少なさ、多言語、多様な現地の規制を理解して、製品やサービスをカスタマイズする。インドは一つの国ながら、数多くの文化と言語が存在する。66の異なる文字で書かれる780以上の言語があり、そのうち22の言語が「公用語」とされ、それぞれが独自の文字を持つ。

・世界最大の統合ソフトウェアおよびデジタルインフラプラットフォームである「インディア・スタック」を活用する。これは国民IDを活用し、インドの人々をプレゼンスレス(その場にいる必要がないこと)、ペーパーレス、キャッシュレスのデジタル時代へと導くものである。2010年は米国の社会保障番号のようなIDを持つ人がほとんどいなかったが、いまや12億人以上が生体認証で銀行口座に紐づけされているデジタルIDを持っている。こうした事実がその規模の大きさを物語っている。しかも、現在インドで広く使われているカスタム開発された共通決済インターフェースでは、ほぼすべての人がスマートフォンを使って、デジタルで銀行口座の取引をしている。また、中間層のほぼ全員がスマートフォンを持っており、世界で最も安いコストでインターネットに接続できる。これが電子商取引のインフラとその機能の成長を促進している。デジタル技術を駆使したインドの物流、決済、流通システムは、欧米を大きく先行しており、世界の羨望を集めている。

 簡潔に言うと、多国籍企業のインド子会社のPBRが高いことは、まもなく世界最大の消費市場になるインドの価値の高さを示している。すべてのB2C企業がそれに注目し、インド市場戦略を立てるべきだ。その戦略には、高い収益性と資本の効率的な活用を図りながら、市場に参入する適切な計画が必要である。

 重要なのは、基本に立ち返り、インド市場向けの製品を企画して、現地で生産し、インド産の原材料を使って、現地のチャネルとデジタル化されたインフラを利用して流通させることだ。先進国でうまくいったことをインドにそのまま当てはめても、まず通用しないだろう。


"Does Your Company Have an India Strategy?" HBR.org, June 27, 2023.