ステップ1:問題の当事者になる

 リーダーも従業員も、適切なワークポリシーを策定することに関心が高い。また、パンデミックのおかげで、そのための貴重なデータとなる経験や意見を誰もが持つようになった。有益な対話をするには、すべてのデータを持ち寄り、すべての視点を取り入れることが重要である。

 ただし、双方が「勝とう」とする現在のやり取りでは、そうした協力的な対話が実現する可能性は極めて低い。双方が問題の当事者であることを認めない限り、対話は成功しない。そのために重要な第一歩は、これまでに起きた間違いを共有することだ。対話の目的は学びであり、よりよい結果を得ることであって、そのためには誤解を解く必要があるかもしれない。

 さらに、この対立は必ずしも平等ではないことを、リーダーは認識しなければならない。ストライキやウォークアウトなど、集団行動の影響力はあっても、懸案である職場のポリシーについては、リーダーのほうが大きな権限とコントロールを握っている。

 筆者は企業と仕事をする際に、リーダーが慢心してはいけないことを強調する。心理的安全性を確立する時と同じように、不慣れな海域を進むために誰もが最善を尽くしていることを認めて、自分の弱さを示すことが、力強い一歩目になる。

ステップ2:予測してルールを設定する

 心理学には、話し合いの成果を劇的に向上させる2つの強力なツールがある。心理的安全性と成長マインドセットだ。

 すべての関係者のニーズを考慮した実りある話し合いをするためには、全員が心理的安全性を強く感じることが重要だ。従業員は、自分たちのニーズや制約(生活費の課題や家族に関する必要など)を打ち明けても、報復を受けないと思えなければならない。同じようにリーダーも、自分たちが直面しているプレッシャー(競争の重圧や市場の需要の変化など)について率直に話すことができなければならない。このような考えを明示することによって、全員で協力しながら、より最適な解決策を見つけることができる。従業員もリーダーも、安心して本心を明かせないと感じた時は様子を見てしまう。

 企業が置かれている環境が常に進化していることを、認識することも重要だ。従業員や組織の要件が変化するにつれて、ポリシーの精度を維持するために再評価しなければならない。

 ここで重要なのは、変更されたポリシーを失敗と見なすのではなく、学習プロセスのステップの一つと考えることであり、これは成長マインドセットの核心でもある。すべての関係者が、継続的かつ適応的な学習プロセスを想定して実践に臨めば、最終的な結果ははるかによくなる。

 このプロセスが継続的で、適応性があり、一連の重要な原則に従っていることに、関係者全員が同意していることを確認する。

ステップ3:両極端な言葉を使わない

 就労形態に関して、生産的な対話を妨げる要因の一つは、過度に単純化された、両極端な言葉だ。5つのWが示す通り、この問題は非常に複雑で多次元的でもある。しかし実際は、「リモートの生産性は対面と同じくらい高い」「文化としては対面のほうが好ましい」など、単純化されすぎた空論があふれている。

 多くの会話で、「でも、彼らが何を考えているのかはわかっている」という明示的または黙示的なフレーズが繰り返される。自分は相手の視点をうまく理解できるというわけだ。しかし残念ながら、そこに科学的な裏付けはない。最近のある研究によると、「他人の視点に立とう」とする人の判断の正確さは、実際にはそれほど高くない。この論文の著者たちが言うように、「他人の視点から見る」ことが必要であり、そのための最善の方法は対話である。

 筆者はリーダーたちに、「WFH(在宅勤務)は避けられない」「リモートワークは創造性を殺す」といった一面的な発言の持つ危険性については明確に指摘するよう、助言している。どちらにも真実はあるが、それぞれの立場をさらに固定化するもので、対話を前進させることはない。

 筆者が仕事をしたある執行委員会では、包括的な発言だと思った時に、出席者はイエローカードやレッドカードを挙げることができた。公平な場を確保して、少し気楽な雰囲気をつくり、より健全で微妙なニュアンスを含む議論ができるようになった。実際にカード制を導入する必要はないが、(リーダーシップも含めて)全員が非生産的な言葉に説明責任を負うようにするにはどうすればよいか、少し考えてみよう。

ステップ4:話し合う

 実際に有意義な議論をする余裕をつくるためには、時間を指定する必要がある。簡単なことだが(わざわざここに記すのもどうかと思うくらいだが)、このプロセスで最も難しいステップになりうることは誰もが知っている通りだ。

 議論を形式化して正当性を持たせるために、ステップ2と合わせて、スケジュールに議論の時間を継続的に組み入れる。毎週、時間を割く必要はないが、定期的に時間をつくること。予測可能性が信頼を築くのだ。このような対話は、フレキシブルワークの問題に具体的に取り組む際も、一般的に効果的な指導をする際も、重要な部分になる。

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 在宅勤務やRTOの議論において、対立する主張の双方に活発な論客がいる状況は、意見の分断が深いことを示している。さらにこれらの立場は、リーダーと従業員、つまり結果に対して強い既得権益を持つグループ間の溝と一致する。

 この問題に関するデータは豊富にあり、いまも増え続けているが、唯一断言できるのは、単純な解決策はないということだ。この分野に関する決定はすべてトレードオフを伴い、それぞれの立場によって経験や重みは異なる。生産的に前進する唯一の方法は、リーダーが従業員を巻き込み、自分たちの組織にとって可能な限り、最も互恵的なモデルを開発するために協力することだ。


"Tension Is Rising Around Remote Work," HBR.org, July 18, 2023.