さらに、ほかに行った3つの実験でも、同様の結果を得ることができた。そして、この現象は、実験によって職場をシミュレーションした場合だけでなく、教育や医療、製造、金融などさまざまな業界でも当てはまることがわかった。また、ソーシャルインパクト・フレーミングが求職者に影響を及ぼすのは、総じて、給与やボーナスなどの金銭的報酬に関する交渉であり、休暇や医療といった非金銭的報酬について、交渉を控えさせる効果はないようだ。

金銭と善良な行いに関する思い込み

 なぜ、金銭的な報酬の交渉に影響が生じるのか。

 金銭はその仕事そのものへの愛や、善良なことをしたい気持ちを汚すものだという、昔ながらの一般的な思い込みにその理由がある。

 たとえば、マネジャーは、仕事に物質的見返り(外発的報酬)を求める従業員は、仕事そのものの性質(内発的報酬)にはさほどやる気をかき立てられず、したがって採用する価値が低いという「モチベーションの純粋性バイアス」を持つことがわかっている。

 この思い込みは前提が間違っている。研究によると、優れた成果は、外発的動機付けと内発的動機付けが組み合わさることによりもたらされる。また、一方のモチベーションが高いからといって、もう一方のモチベーションが低いとは限らない。

 一方、筆者らの研究では、求職者は、物質的見返りへの関心をよく思わないマネジャーのバイアスを知っているかのように振る舞う。その結果、社会的インパクトが強調されると、求職者は高いパーパス意識など崇高なモチベーションに引かれて応募してきたと期待されていることを自認し、金銭的報酬も気にしていることを示唆しうる言動を自粛する。

求職者と採用担当マネジャーへのアドバイス

 マルクス主義的に考えると、ソーシャルインパクト・フレーミングとは、意図せず労働者を犠牲にして、資本家を利する文化的傾向といえるかもしれない。だが、ソーシャルインパクト・フレーミングは、社会に貢献したいという組織の純粋な努力に由来することが多く、従業員にも恩恵をもたらしうることを考えると、組織は公共の利益を重視していることをアピールすべきではないと主張するのは安易すぎる。

 そこで、このようなメッセージにさらされることにより、労働者が受ける金銭的デメリットを最小化する方法を提案をしたい。

 労働者の側から見れば、求職者はみずからの交渉スキルの向上に力をそそぐことにより、組織がソーシャルインパクト・フレーミングを使った時、簡単に影響されることを避けられるだろう。また、人間の福祉に配慮していると主張する組織が、自社の従業員をどのように扱っているか調査するのもよいだろう。社会的なインパクトを強調する企業が、金銭的であれ何であれ、自社の労働者のウェルビーイングを踏みにじっているとすれば皮肉なことである。

 組織は、従業員の外発的モチベーションに対して、バイアスを抱くマネジャー(前述の通り、こうしたバイアスは間違っている可能性がある)に研修を受けさせてもよいだろう。たとえば、きちんとした報酬を得て家族を養いたいという欲求は、優れた働きぶりを予測する力強い要因であることがわかっている。

 内発的モチベーションを美化して、外発的モチベーションである報酬に関心を示した求職者を反射的に不採用にすれば、仕事に情熱を抱き、優れた働きをするかもしれない良質な求職者を逃してしまうおそれがある。

 何より、ビジネスに倫理的にアプローチしようと努力する組織は、ソーシャルインパクト・フレーミングを意識することで、こうした組織の主張が報酬を抑えるツールになってしまうという事態を避けられるだろう。


"Research: Why Employees Accept Lower Pay at Mission-Oriented Companies," HBR.org, July 27, 2023.